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七話 匂いを嗅ぎ分けるのはボクの十八番さ!

葉加瀬の匂いはきっといい匂いでしょうね。

 太陽が傾き始めた頃、ようやく葉加瀬は動き出した。

 葛葉達はその後を追い、葉加瀬同様にカフェを後にした。


「いや〜、まさか半日カフェに居座るとはねー」


 後を追いながら葛葉は緋月の言葉に不満げな顔を浮かべた。


「寝てただけですよね、緋月さん」

「んー? はて?」


 葛葉はカフェでのことを思い返した。

 バーガーを食べ終わった鬼丸は眠くなってしまったのか寝てしまい、新聞に飽きたのか緋月もあの後すぐに寝てしまったのだ。

 結局起きていたのは葛葉だけで、その間はこんなことしている意味はあるのかとよくよく考えていて、結論としては意味ないなと行き着いたのだ。


「はて? じゃないんですけど……」


 可愛いと思ってるのか、うざったいようで憎たらしいようで、なんだか複雑な気持ちになる顔をする緋月にうんざりと肩を落とすのだった。

 その時だったグイッと、ただでさえ布面積の少ない服の襟を掴まれ引っ張られ裏路地へ、葛葉は大きく蹌踉(よろ)けた。


「何事ですか!?」


 引っ張ったであろう人物の緋月に問いただすが、緋月は口に指を当てしーっとジャスチャーで返した。

 それを見てすかさず口に手を当て、緋月が覗いている場所を、同様に覗き見やった。


「っ、気付かれたんですかね……?」


 覗いた先では、葉加瀬がキョロキョロと周りを見回していた。

 まさかと葛葉は思い緋月に尋ねるが、緋月は何も言わずに葉加瀬の動向を静かに見守っていた。


「……」


 周りに何もないことを確認したのか、葉加瀬はとある建物の中に入っていった。


「なんでしょうかね」

「……んー行ってみないとなんとも。よし、それなら行こうか!」

「えぇ、行くんですか? 警戒されてません?」


 尋ねる葛葉に、曖昧に答える緋月。結論としては引き続き後を追うことになったが、葛葉的にはNOだった。

 葉加瀬が周りを窺っていたということは、もしかするとバレているかもしれないからだ。そんな状態で同じ建物に入れば、確実にバレてしまう。


(て、何も悪いことしてなくない?)


 バレるの危惧する葛葉だったが思い返せば、別に大変なことをしでかしてるわけでもない、後を尾ける程度なら一言謝れば許してくれそうだ。


「ささ! 行くよぉ、葛っちゃん!」


 駆け出す緋月に、葛葉は遅れて駆け出した。が、眠気眼を擦る鬼丸を忘れていたことを思い出し、急いで取りに戻るのだった―――。

 ―――扉を押し開くと、そこには食堂が広がっていた。簡素で小さな食堂で、疎に座り食事をする人々。

 食堂を通り過ぎると通路があり、そこには何十もの扉が立っていた。

 食堂の端っこには二階に続く階段があり、そこにも扉はいくつかあった。


「……ここって」

「宿屋だね」


 どっからどうみても宿屋な内装に、それ以外は考え事すらなかった。


「もしかしてここで寝泊まりしてるんですかね?」

「んー、ギルド職員は住み込みで働けるよう快適な部屋がギルドに備わってるから〜、態々外で泊まる必要はないんだけどねー」


 葛葉の口を衝いて出た疑問に緋月は首を傾げながら答えた。

 だが問題は、


「見失いましたね」

「そ、そだねぃ」


 葉加瀬を見失ったことだった。

 宿屋に泊まる泊まらないは問題ではない。てかそんなのは個人の自由だ。

 ただここで見失ってしまえば、半日という時間が無駄になってしまう。(主に葛葉のみだが)


「手分けして探します?」

「いや、そんな手間かける必要はないよ……」


 緋月のドヤ顔に葛葉は「何言ってんだコイツ、今こんなことしてるのが手間だろ」という目で見て、とりあえず緋月に任せてみた。


「ボクなら……葉加瀬の匂いを嗅いで、葉加瀬の居場所を割り出せる‼︎」


 ふふんとさらにドヤ顔を浮かべた緋月は、


「鬼丸ー、今日の夜は何食べたい?」

「んー、ハンバーグかいいのじゃ〜!」

「あっ、待って!? 帰ろうとしないでぇ!」


 手を繋いで夕食のことを話し合いながら宿屋を後にしようとする葛葉達に気が付き、急いで捕まえるのだった。


「はぁ、はぁ、キモくないからね!?」

「キモいですよ」


 葛葉の反応を先読みし否定するも、至極真っ当なことを言う葛葉に緋月は何も言えなくなってしまった。


「と、とりあえずはボクの言う方法で探すしかあるまいよ!!」

「はぁ、そうですね。……って、うわぁ」


 緋月の激キショ探知に葛葉はもちろん、鬼丸でさえ引いていた。

 この人本当にやり出したよみたいな目で見てくる二人に、緋月は複雑な気持ちに眉を寄せつつ、葉加瀬の行方を探るのだった。


「んー……あっ、このフローラルで透き通るような匂いは‼︎」

「実況要らんのじゃ」

「凄くキモい」


 二人の反応を聞こえなかったことにし、緋月は匂いの漂ってくる方へ歩き始めた。

 葛葉と鬼丸は引きつつも顔を見合わせて、緋月の後に続いた。

 そうしてたどり着いたのは106という番号の書かれた扉の前だった。


「この中ですか?」

「うん、間違い無いよ」

「……でも、この後はどうするんです?」

「あ」


 何も考えていなかった、と言う顔で固まる緋月に葛葉はだろうなぁと言う顔で肩をすくめるのだった。

 そしてやれやれと首を左右に振りながら、スキルを用いて細い釘とゴムのハンマーを創造した。


「はぁ、協力なんてしたくなかったんですけど」

「ここにいる時点で無理くない?」


 嘆く葛葉に、緋月は正論で返した。

 ピクッと口角を痙攣させるが葛葉は大人しく、扉の前に立ち、扉に釘を立ててハンマーでトントンと叩いた。


「……なるほど!」

「やってることが犯罪じゃのう」


 その発想ななかったという緋月の反応と、鬼丸の言葉に、穴を開けている葛葉はやるせない気持ちに歯を食いしばるのだった。


「はい、開きましたよ!」

「さっすが葛っちゃん‼︎」


 褒められるが褒められるようなことはしてないという矛盾に、葛葉は憔悴したような顔でため息を吐くのだった。


「……鬼丸、後で私のことぶってくれる?」

「戒めならば、葉加瀬に謝るべきじゃろうが」


 葛葉の言葉に鬼丸は正論で返しつつ、空いた穴を覗き込み、部屋の中を窺う。

 すでに緋月はピタッと両手を扉に着けて覗いていた。

 葛葉も気が引けるのを感じつつ、罪悪感を噛み締めて穴から部屋の中を見るのだった。

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