四話 木の葉の中から
投稿できてない分は今後、余裕があれば投稿しようと思います!
「―――って言ったのに」
ガサガサとギルドの敷地に生えている木の葉から顔を出す葛葉は、目の前の部屋の中の光景を見つつ、どうしてこうなったのか頭を抱えていた。
(まさか、実力行使に出るとは思わなかった……)
はっきりと断った葛葉だったが。緋月と鬼丸によって捕らえられてしまい、そのままこの場所まで連行されてしまったのだ。
部屋、ギルド長室では徹夜で仕事を片付けているのか空になったカップが何個も転がっていて、机の上に置いてある書類はあと少しでなくなると言った量だった。
シンプルに徹夜をしている時点で、おかしな話だが、この世界に労働基準監督署は存在しない。
「葉加瀬さん……!」
書類を終わらせていく葉加瀬の後ろ姿に潤んでくる目に指を当てた。
ほぼ毎日こんな時間までやっているのだろうことが窺える光景に、葛葉の涙腺は崩壊寸前。
隣にいる阿保面の元凶を今突き出してやりたいと言う気持ちを必死に抑えるのだった。
「つまんない朝じゃのー」
「ねー!」
久々に緋月と鬼丸が仲良く話してる光景は大変喜ばしいはずなのだが、甘々な葉加瀬の代わりに憤怒してしまう自分の気持ちに、葛葉は首を傾げるのだった。
「いつもこの感じなのかのう?」
「さぁ? ボクはギルド長室にはあんま朝は行かないからねー」
「仕事しましょう?」
さらっと言う緋月だか、葛葉は冷静にツッコミを入れるのだった。
「仕事なんてボクには合わないよー」
ケラケラと笑う緋月だったが、冷たい葛葉の視線に自然と笑いは消えていった。
「ボクだってやりたくないからやってない訳じゃないもぉん」
「言い訳ですか?」
「なんか当たり強いね、今日」
理由があるんだと言う緋月に、葛葉は耳が痛くなることを言うと、緋月は真顔で葛葉の顔を見るのだった。
当たりの強い葛葉と、特に言い合いをしなくなった機嫌のいい鬼丸。普段の二人が真逆になった感覚に、緋月は不思議だと微笑みを浮かべた。
そんな風に三人が話していると、
「む、終わったようじゃな」
ずっと葉加瀬のことを観察していた鬼丸が、葉加瀬が動き出したことに反応した。
葛葉と緋月も鬼丸の視線の先、部屋の中の葉加瀬へ目を向けると、机の上にあった書類は全て「済」と書かれた箱に入っていた。
済と書かれた箱にはジェンガのタワー並みに積み上がった書類があった。
背伸びをして葉加瀬はクルッと椅子を半回転させて降りては、空になっていたコーヒーカップを手に、コーヒーポットの置かれている場所へ歩いて行った。
「まだコーヒー飲むんだねー」
「緋月さんはコーヒーって飲むんですか?」
「んーあんまり好きじゃないかな」
「わしは嫌いじゃ!」
聞いていないのにも関わらず手を挙げ行ってくる鬼丸を無視して、葛葉は緋月の横顔を見た。
苦い思い出を思いだすような、苦しそうな表情にコーヒーのことについてはあまり聞かないことにするのだった。
「あ、戻ってきた」
緋月が吐いた言葉に葛葉はハッとギルド長室の中に目を向けた。そこにはぽわぽわと湯気を立たせるコーヒーカップを手に取った葉加瀬がいた。
香りを堪能し、一口啜ってはホッと息を吐くような仕草を見せると、ボフッとギルド長室の書斎椅子に腰掛けた。
すると葉加瀬の顔がパッとギルド長室の扉へと向けられた。そしてすぐにギルド長室の扉が開き女性職員が中に入ってきた。
「なんかあったのかな〜?」
「他人事すぎません?」
ギルド長室にやってくると言うことは相当なことか、なにかを伝えにきたということ。だが緋月はほけ〜っと葛葉達と一緒に中の様子を眺めるだけだった。
数分もの間職員と話し、話が終わった葉加瀬は目頭に手を押さえながら椅子に再び座った。
「大変そうじゃのう」
疲労困憊そうな葉加瀬の姿に鬼丸が哀れみの目を向けた。そのことに驚きつつ葛葉は葉加瀬を見守っていると、葉加瀬が動き出した。
ノートパソコンを『虚空庫』に入れ、部屋を出ていったのだ。
「お、ようやく帰るのかー」
「……今日はもう寝てるだけじゃないですか?」
徹夜で仕事を終わらせたのだ、せっかくの休日はぐっすり眠ることだろう。
そう思っていた葛葉だが、
「ちっちっち、葉加瀬はやることいっぱいだからねぃ。そう簡単には休めないよん?」
「じゃあなおさら、仕事して下さい緋月さん」
こんなことしてる場合じゃないだろと思い効果はないだろうが言う葛葉に、緋月は微笑みで返した。
「ボクにはボクのやることがあるんだぜぃ?」
「それが私への嫌がらせですか……」
「あれ!? そんな認識なの!?」
「当たり前じゃないですかー」
やることがあるという緋月の言葉に、普段のことを思い返して葛葉は口にした。存外好意を持っているだろうと思っていたのか、緋月は素っ頓狂な声と顔で驚きをあらわにした。
そんな緋月を笑う鬼丸にも顔を向けて、葛葉は、
「鬼丸もあんまりしつこいと嫌いになるからね!」
「おちょちょま、どいうことじゃあ⁉︎」
葛葉の言葉に驚きつつ慌ててしまい鬼丸は木の枝から落っこちてしまいそうになるのだった。
「んじゃま、移動しようか! 葉加瀬はどこに行くのっかな〜」
葉加瀬が部屋を出て行ってから早くも五分以上は経っている、早く追わなければ見失ってしまう。
故に緋月は和気藹々とした会話を強制的に終わらせて、木の枝から降り始めるのだった。
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