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二話 それぞれの冒険とは

 バシャバシャと水を掛け合う緋月と鬼丸。その二人を見守るように脚だけ水に浸けた葉加瀬と律。そして更にその二人を見守る葛葉と五十鈴。

 そんな光景が広がっていた。

 この屋敷にはなんと大きなプールもあったのだ。

 魔力を魔法陣に流し込むことで生成される仕様だった。そのことに気が付いた葉加瀬が水を張ってしまい、プールで遊ぼうと緋月が駄々を捏ねたのだ。

 そしてこうなることが分かっていたかのように、どこからともなく千佳がやってきては、水着を置いていったのだ。


「覚悟してたって言うけど、さ。……五十鈴」

「はい」

「ちょっと手が震えるん……っ! 五十鈴っ……?」


 葛葉が実はと、手の震えのことを打ち明けていた途中、震える手を優しくその上から包んでくれたのだ。


「分かってますよ。……ちゃんと葛葉様で安心しました」


 クスクスとおかしそうに笑う五十鈴に、葛葉もクスクスと笑みを漏らすのだった。


「よかったです」

「変わったね、あの子。……前までは強がる子だった気がする」

「そう、ですね」


 これまでの冒険、これまでの経験が葛葉を強くさせた。身体的にではなく、精神的に。

 強がり、仲間を巻き込みたくないということしか考えない、優しく仲間想いで愚かな少女だった。


「葛葉さんは変わったんですね……」

「律ちゃんは感じないの?」

「……日々接してるせいでしょうか。嬉しいですが、悔しいですね……」


 指を組んではモジモジとし律が悲しそうな表情(かお)を浮かべてることに、葉加瀬は気が付いて疑問符を浮かべた。


「……君は焦り過ぎだよ、あの子に追い付きたいって気が逸り過ぎだ」


「もう、2つもレベルが離れちゃったんです」

 更に悔しそうな顔をして話す律に、葉加瀬は顎に手を当ててパッと気が付いた。


「律ちゃんにとっての冒険は何かな?」

()の、冒険……?」


 冒険。冒険者が行う冒険とは、きっと意味合いが違う気がすると律は直感的に気が付いた。

 律がレベルアップしたのは鬼丸との戦いのみ。それからも激戦、死戦を何度も超えてきた。

 それなのにレベルアップしないのは、


「冒険……」


 葉加瀬の言う冒険というものが分かっていないからだ。


「本来、冒険は他人から言われて気がつくものではないよ。自然と自分自身で気がつくもの」

「じゃ、じゃあ葛葉さんも、五十鈴さんも⁉︎」


 葉加瀬の付け足しの言葉に過剰反応し、律はグイッと葉加瀬へ迫った。


「……あの二人はまだ気付いていないようだね」

「じゃあどうして……!」


 グイッと更に葉加瀬へ迫って、律はどうしてなのか。あの二人が自分を置いて先へ先へと走っていってしまうのは。必死そうな顔の律に、葉加瀬は律の肩に手を置いて距離を置いた。


「単純かな。君の冒険が『葛葉ちゃん達の後ろ姿を追い掛ける』じゃないからだよ」

「……」


 告げられた言葉に律は、どうしてやなんでだとか、そんなこと、等も言えずに何も言えなかった。


「君は迷っているんだよ」


 律は暗い顔をして揺れるプールの水を眺めた。

 考える、自分の冒険とは何か。考える、自分は何がしたいのか。考える、自分には何ができるのか。

 その時だった、バシャンッと音と水飛沫を立てて隣で座っていた葉加瀬が引き摺り込まれた。


「わぷっ―――」


 残されたのは葉加瀬の口から出たとは思えない声だけだった。


「もー! りっちゃんも葉加瀬も暗い顔をしないの!」


 葉加瀬が引き摺り込まれた場所から、水面を

 突き破って緋月がひょこっと不満そつな顔を出してきた。


「ウヌもじゃぞ。冒険の目的なぞ、逸り決めることではないのじゃ」

「……うぅ」


 ひょこっと水面を突き破り飛び出してきた鬼丸に、耳の痛いことを言われてしまい、律は呻きながら水中に入りにいった。


「葛っちゃーん‼︎ 一緒に泳ごー‼︎」

「やでーす‼︎」


 緋月が遠くのビーチチェアで寛ぐ葛葉に満面の笑みで声を掛けるが、満面の笑みで葛葉は緋月の誘いを断るのだった。


「え」


 その衝撃に耐えきれず緋月は勝ちこちに固まってしまい、浮くことすらできずそのまま沈没していってしまうのだった。

 満面の笑みで断った葛葉は、後ろの五十鈴に飲み物を用意して貰うように頼み腕枕をして目を瞑るのだった。

 が葛葉の下にはすでに、


「葛葉よ、一緒に泳ぐのじゃ!」

「やーだ。私はここで寛ぐの!」

「なんでじゃ‼︎ 遊ぶのじゃー‼︎」


 鬼丸と同じような口調、同じような態度で葛葉は拒否する。そんな葛葉に鬼丸はなおも食い下がるのだった。

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