一話 誰が為の水着回
燦々と照りつける太陽のある雲ひとつない青空の下、夏のよそ風によって運ばれて来る少女達の楽しそうな声。
それはとある屋敷の庭からだった。
「―――さぁしまってこー‼︎」
ふりふりが多く着いたスク水のような赤い水着を着た緋月がそう言うと同時にボールを高く上げた。
ボールは綺麗な弧を描き相手チームのコートに落ちる寸前、不自然な軌道を描き、ボールは叩きつけられるように緋月のチームのコートへと落ちたのだ。
「……は、葉加瀬‼︎ 魔法禁止!」
「そうじゃそうじゃ!」
その不自然な軌道を描きボールが落ちた原因、それは白衣の下にかなり攻めた黒いビキニを着た葉加瀬だった。
「だとしたら、そっちのチームの圧勝になるだろう?」
目元に掛けたサングラスを掛け直し、葉加瀬は的確にチームの力量を理解していた。
葉加瀬が率いるのは律、緋月が率いるのは鬼丸。とまさに力量さは必然。
「ハンデくらいないと勝負にならないからね」
「だからって魔法はズルいってーッ‼︎」
むっかぁ〜‼︎ と怒る緋月とそれに同調する―――真っ黒なお子様用のふりふりが着いた水着を着た―――鬼丸に、葉加瀬はやれやれと肩を竦めて、人差し指を立てた。
「じゃあネットの向こうは無しで行こうか」
「……ん、それだったらまぁ」
葉加瀬の条件を聞き入れた緋月はなおも渋々だったが、大人しく定位置へと着くのだった。
「やれやれ……律ちゃん。意外にも私は負けず嫌いでね、本気で行こうか」
「は、はい‼︎」
葉加瀬がボールを拾い上げながら、斜め後ろで緊張しつつもきちんと、いつでもボールを返せるように構える―――ショートパンツのボトムスとシンプルなトップスを着た―――律へと掛け声をやった。
そんな四人を―――白のオフショルダーの下に白の水着を着た―――葛葉はデッキチェアの仰向けに寝転がりながらグラサンをずらし眺めていた。
「葛葉様、お飲み物お持ちしましょうか?」
そんな葛葉にすでに用意した替えの飲み物を盆の上に置いた状態の―――王道のデザインにメイドらしい装飾の施された水着の―――五十鈴が背後に立っていた。
「んーん、要らない。ありがとね」
「いえ。……それにしても大分落ち着いてますね」
「そう?」
不思議な顔をして横から覗き込んでくる五十鈴に葛葉は逆に聞き返した。
だがふと思えば確かに冷静だった。
葉加瀬から話されたのは『命名式』という式典のような儀式のことと、それが終わると同時に葛葉は正真正銘の【英雄】となってしまうこと。
【英雄】になってしまえば、もうその運命からは逃れられないくなってしまうことを。
「実感がない……感じですか?」
「ううん……違うよ、ただ覚悟してただけだよ」
五十鈴の疑問に葛葉はすでに腹は決まっていることを述べた。
すると五十鈴は嬉しそうに微笑んで、定位置へと戻るのだった。
「そう言う葛葉様、かっこいいです」
「え〜、普段は?」
かっこいいという五十鈴の発言に、葛葉はへにょっとした表情を浮かべて尋ねると、
「カッコ可愛いです」
「カッコ可愛いかー、そっかー」
五十鈴の返答に葛葉は予想してたのと違い少しがっかりしつつも、少し嬉しい気持ちに顔を綻ばせるのだった。
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