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TS化転生っ娘は、ちょっとHな日常と共に英雄になるため、世知辛い異世界で成り上がりたいと思います!  作者: んぷぁ
第七部 一章——帰ってきた我が家、安らぎの日々——
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十話 夏が来る。あの日々がやって来る

 ―――一週間後―――

 夏が来た。この世界にもついに夏が来たのだ。

 そして夏が来たと言うことは―――。


「葛っちゃんの薄着だ〜い‼︎」


 バンっと葛葉邸のリビングの扉を開けた先にあったのは、


「あ、おはようござます」


 いつもの服装の葛葉達だった。

 扉を開けた状態で固まっている緋月の横を葉加瀬がすり抜けて、緋月のことを無視して中に入って行くのだった。


「わぁ、どうしたんですか、これ?」

「来る途中のお店で見つけたんだ。よかったら」

「ありがとうございます!」


 と葛葉と葉加瀬がそんな平和な会話をしている。五十鈴もいつものちゃんとしたメイド服で、たった今貰ったばっかりのスイカに似たこの世界の果物を台所へと持っていった。

 律は来る途中に庭で素振りをしていた。いつもの服装で。鬼丸はソファの上でゴロンと寝っ転がっていた。

 変わり映えのしない葛葉邸の様子に、緋月は酷く落胆するのだった。


「どうして……」

「? 緋月さん?」


 緋月の呟きが聞こえた葛葉が緋月へ振り返った。

 すると緋月が、


「どうして君はその格好なんだい!?」


 とダダダと駆け寄ってきてはビシッ! と指を突き立てグリグリと葛葉に押し付けてきたのだ。

 葛葉が驚き目をパチクリさせるが緋月は、葛葉の身体を椅子ごと回転させた。回転式の椅子ではないのにだ。


「え、えっと……どうして、と言われても?」


 突然のことに葛葉が首を傾げていると、緋月はバッと目にも止まらぬ速さで葛葉の服を脱がした。

 脱がされたことに葛葉が気が付いたのは、自分が万歳の形で上裸して数秒後だった。


「……へ」


 葛葉がそのことに気が付き、ボッと顔が真っ赤になって涙が潤み始めた瞬間だった。

 目の前で不満たらたらな顔だっただった緋月が歓喜に満ちた顔に変わるコンマ数秒の世界の中で、空気が歪んだのだ。

 そして殺気に満ち溢れた二人が技を繰り出した。

 盾が緋月に投げつけられ、不可視の拳が緋月に繰り出される。

 左右から頭、脚をとてつもない力で殴られた、投げつけられた緋月の身体はその場で一回転した。

 すると殺気に満ち溢れ、その上鬼化した五十鈴がコンマ数秒の世界で俊敏に動き、衝撃で浮き上がった緋月のことを蹴り付けた。

 ドンッという音の次にはドガンッという音ともに壁が何かに突き破られた。そして外からドォォンッ‼︎ という音が響いてくるのだった。

 葛葉が今目の前で起きた不可思議な現象に驚いていると、ファサっと葛葉の肩に布が掛かった。


「……」


 外から聞こえてくる律の「大丈夫ですかっ⁉︎」という声を聞きながら、葛葉は目の前で起きた出来事を理解するのにそっと瞑目するのだった―――。




「―――ごめんなちゃい」


 頭に大きなタンコブができた緋月が正座をしながら葛葉に謝罪をするのを、葉加瀬と五十鈴が無言の圧で見届けていた。


「……あの、頭を上げてください。もう気にしてないですからっ」


 深々と頭を下げる緋月に、脱がされた服を着直した葛葉は困り笑顔を浮かべながら緋月に気にしていないことを伝えるが、緋月は一向に頭を上げなかった。


「緋月さん?」

「い、いやあのね? 今上げたらボクの頭が取れちゃいそうなの‼︎」


 よほど二人の鉄拳制裁(盾と魔法)が効いたのか緋月はガクブルと震えていた。


「五十鈴、許してあげて! 葉加瀬さんも!」


 向けられていないはずの殺気を感じつつ、葛葉は二人に緋月に変わって頼み込むと、


「……葛葉様がそうおっしゃるならば」

「今回のは度が過ぎてたよ、緋月」


 五十鈴は引き下がり、葉加瀬は緋月を叱るようにたった一言言い下がった。


「ま、まぁあの、終わったことですし……」


 まだあの時の動揺は抜けきっていないが、葛葉はそれよりも二人の怒りを鎮めることに尽力した。

 律と鬼丸は二人の怒りに恐怖してしまい、葛葉が廊下で待っててと避難させたため、今この場にいるのはこの四人のみだった。


「うぅごめんよぉ、葛葉ちゃん……」

「い、いいんですよ。でも、次からはやめて下さいね……?」


 二人の顔を伺いながら許しを乞う緋月と、その緋月の手を取った葛葉。まるで仁王像のような二人は、その様をジーッと見る他だけだった。


「そ、それよりもどうしたんですかお二人は? こんな朝早くに」


 話題を変えようと葛葉が二人の顔に目線をやりながら尋ねると、壁の修復をしていた葉加瀬が緋月の顔を一瞥し、葛葉の前へやってくる。


「は、葉加瀬さん?」

「大したようではないんだけどね。……君に話があるんだ」

「……私にですか?」


 葉加瀬は瞑目しながら頷き、


「すまないが二人だけで話したい。場所を移してもらえるかな?」

「え、はい。じゃ、じゃあ私の部屋で……」


 葛葉は頭の上に疑問符を浮かべながらも葉加瀬の頼みを聞きいれ、リビングを共に出て行ってしまった。

 残された五十鈴と緋月は先ほどの空気が残っており息が詰まる。

 だがそれは五十鈴によって破られた。


「葉加瀬様の言う話とはなんなんですか?」


 先程までの圧のある声ではなくなった五十鈴に、緋月はホッと安堵をしつつ顔を上げた。

 そしていつものような調子を戻すように徐々にテンションを明るくしていくのだった。


「葉加瀬の話ってのはね……命名式のことだよ」

「っ」


 五十鈴はバッと緋月の顔を見た。

 哀愁のある顔でただ一点を見つめる緋月に、五十鈴は顔を上げた。


「もうその時期でしたか」

「うん、早いよね」


 命名式。それは半年に一度行われる儀式のようなものだ。その半年の間にLv.3以上へレベルアップした冒険者を呼び集め、中央ギルドにて、その冒険者の活躍に相応しい『二つ名』を授け、益々の活躍をしてもらうのを目的にしている催しだ。

 緋月の二つ名や葉加瀬のもその際に賜ったものである。


「一ヶ月後。あの子は二つ名を授けられる。そしてその二つ名はもう決まってる」

「……【英雄】ですね」

「うん。そこでやっと【英雄(葛っちゃん)】は【英雄】になる」


 葛葉の活躍はこの街や、ギルドの上層部、ギルド長、ギルドマスター、王国上層部、各国上層部には正確に伝わっている。

 が、世間一般ではあやふやな形で広まっているのだ。

 噂程度にしか語られていない、与太話程度にしか受け取られていない。


「……葛っちゃんが本物になる」


 【英雄】の責務、重責、背負うモノ、覚悟、それら全ては生半可な覚悟では務まらない。逆に潰れてしまう。


「心配なさるのですか」

「……うん、心配しかないよ。だってボクは見て、聞いて、思って、触れて、感じたんだもの」


 ―――英雄の苦悩を。英雄の覚悟を。英雄の背を。英雄の死を。英雄の遺したものを―――。

読んで頂きありがとうございます!!

これにて第二章は完結です! 次章では夏ならではのイベントが盛りだくさん!……の予定です。

是非お楽しみに!

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