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TS化転生っ娘は、ちょっとHな日常と共に英雄になるため、世知辛い異世界で成り上がりたいと思います!  作者: んぷぁ
第七部 一章——帰ってきた我が家、安らぎの日々——
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八話 また逢う日まで

 ―――朝食後のすぐ後―――

 葛葉達は眠ってしまった鬼丸をそのままに(にのまえ)の下に向かっていた。

 数ヶ月分の食料となる干し肉や、怪我した時に手当てできるよう医療キットと回復液(ポーション)を持ってきていた。

 三人は旅立つ一になんて言葉を送ろうかと考え込んでいたが、そんな時間はあっという間で、予め言われていた西正門へ到着してしまった。


「……あ、葉加瀬さん」


 遠目で見えたのは一と葉加瀬が向かい合い話し合う光景だった。

 次第に距離は縮まっていき葛葉達が声を掛ける前に、二人は葛葉達に気が付いた。


「なんや来てくれたん?」

「当然ですっ、お世話になったんですから」


 葛葉達の顔を見た一が茶化すように笑いながらそう口にした。葛葉は真面目な顔でズイッと一に近寄り、一の目を真っ直ぐ見て言った。

 すると言われた一は気恥ずかしそうに、


「わ、わかとるよ」


 一歩下がって苦笑した。


「……鬼丸は居ないの?」


 葛葉達一行を見ていた葉加瀬はここに鬼丸がいないことに気付いて、葛葉達に問い掛けるも、葛葉達は言いづらそうに顔を見合わせた。

 そして、


「鬼丸は……寝ちゃってますね」


 正直に答えるのだった。

 それを聞いた一は微笑みを浮かべて、


「平常運転やなぁ」


 と口にするのだった。

 その顔がとても嬉しそうで、葛葉は首を傾げた。が問うことはせず、一のために持ってきた物資の入っている五十鈴が持つ大きな風呂敷を手渡すよう、五十鈴に目配せをした。

 すると五十鈴が一の前に立って風呂敷を手渡す。その際、五十鈴は一に懇切丁寧に中に入っている物を説明するのだった。


「ええの?」

「はい、これは私達からのお礼みたいな物です」


 一が居なければ『八岐大蛇』との戦いで葛葉達は全滅していただろうし、葛葉は最初の頃は色々とアドバイスをもらった。色々と教えてくれ、助けてくれた一にお礼するのは当然のことだ。


「……これ、受け取んの拒否すんはちゃうよな」


 受け取った風呂敷をマジマジと見た一がそう呟いて、積まれている荷物の上にそれを置いた。

 そして葛葉達に振り返って、


「あんがと」


 と満面の笑みで答えるのだった。


「おっと、もうそろそろ時間だね」

「へ、もう? 早ない?」


 そんな場の雰囲気に水を差すように葉加瀬が一に時間を知らせると、素っ頓狂な声で驚き一は葉加瀬へ聞き返していた。


「え、あの、これだけなんですか? 見送る人は……」


 見送りが終わりそうな雰囲気になってきたのを感じ、葛葉は思ったことが口から出てしまった。


「ん? あぁこんなもんよー。ウチ、しょっちゅう旅でとっから、みーんな慣れちゃって来なくなっちゃったんよぉ、薄情やと思わへん?」

「しょっちゅうって……」

「長くこの街にいたとしても、一は一ヶ月だったかな」


 思いの外しょっちゅう旅に出ているらしいことに、葛葉は苦笑してしまった。


「それは……」


 仕方ないと言葉が出てしまいそうになったが、喉くらいで堰き止めて、咳払いをして改まって一の顔を見た。


「なら、私達がその人達の分まで背一杯見送りますよ!」

「えっへ〜、ええの? ウチは幸せ(もん)やなぁ」


 葛葉の言葉を聞いた一は嬉しそうにそう言うのだった。だが幸せそうな顔の一に葉加瀬は、


「さ、時間だよ。用意してあげた馬車の準備が整ったみたい」


 再び時間を知らせた。

 葉加瀬アラームかなと、正確無比にそして淡々と伝えてくる葉加瀬に葛葉そう思わずにはいられなかった。


「……おし、じゃあ行ってくんよ!」


 覚悟を決めた声を上げて一は門に向かって歩き出した。そんな背中に、


「一さーん! お元気で〜‼︎」

「ありがとうございましたー!」


 葛葉と律の声援が届き、一が振り向いて手を振ろうとした、が切り火をする五十鈴に視線が集中してしまうのだった。


「一。体には気をつけて」


 と遠くに居るはずの葉加瀬の声がはっきりくっきり聞こえ、一は苦笑しつつ頷いて手を振り返した。

 可愛い後輩達に見送られ一は、晴々とした気持ちで旅立つのだった―――。

 ―――正門を潜り抜けた一は用意された馬車に向かっていた。


「―――ボクも居るよ、ちゃんと」


 そんな一の背中に掛けられた声にビクッと一は肩を跳ねさせてしまった。


「……」

「ま、思ってることは大体わかるけどさ。……葉加瀬の反応を見るに色々事情があるみたいだね」

「……せやで」


 気まずい空気に呼吸困難に陥りそうになる一だったが、どうにか息を整えて、受け答えを成立させる。

 街を囲う壁の外で待機していた緋月はゆっくりと一に近付いていく。

 一は先日のことを思い出し冷や汗を滲ませ緊張するが、


「どんな事情があるのかは知らないけど、悪いことじゃないらしいから、……ま、頑張ってね」


 その緊張は必要ない物だった。

 驚き振り返り緋月の優しい顔をみて、詰まっていた息を吐いて安堵した。


「そんな分かりやすく安心しないで? そんな怖かった?」

「……ベンガルトラ二匹に挟み撃ちされた気分やで」

「うーん、分かりそうで分かりにくいわ。……ふふっ、とりあえず! 頑張って!」


 一の下手な例え方に二人はクスクスと笑い合い、最後に顔を見合って、


「あの子んこと、この街ん事。……ウチの帰る場所は任せたで!」

「ふっ、誰に言ってんのさ。このボクだよ? そんなの余裕さ。(にの)っちこそ、旅の目的は分からないけどさ、絶対果たしてね目的」

「……っ。せやな、せや。そうせなあかんからな。任せられたわ、ウチに任せとき!」


 互いに大切な物を託し合った。

 緋月は葛葉やこの街を、一は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を。

 そうして一は馬車へ乗り込んだ。緋月や街には振り返らずに。なぜなら信頼できる緋月に託したのだから―――。

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