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TS化転生っ娘は、ちょっとHな日常と共に英雄になるため、世知辛い異世界で成り上がりたいと思います!  作者: んぷぁ
第七部 一章——帰ってきた我が家、安らぎの日々——
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八話 お酒はほどほどに

 ガタンッと言い強く椅子が蹴り倒された。

 蹴り倒されたと言うより、押されて倒されたの方が近い。何故ならそれは、緋月が葛葉へ飛び付くために床を蹴ったことで起きたからだ。


「ん〜ふふふ、葛っひゃ〜ん」


 葛葉の身体に抱き着いた緋月は、ぐりぐりと頬を葛葉の脇腹に擦り合わせ表情を崩した。


「いい匂いぃ〜、ヘック……うぅ、葛っひゃあん」

(弱かった……。すんごい弱かったぁ……)


 あの葛葉の言葉の後30分も経たずにヘベレケとなり、言動は終始意味不明のうえ、呂律もまともに回らないのか意思疎通が困難な、そんな状態になったのだ。

 弱いのになんで飲んだの? と言う思いが浮かんだがすぐに首を振って答えを胸中で呟いた。


(私のことが好きで、そして一緒にお酒が飲みたかったから……)


 弱いも強いも関係ない、緋月はただ単純に葛葉と飲みたかったのだ。


「ひ、緋月さん、倒れちゃいます!」


 グググと抱き付き体重を葛葉に預けてくる緋月に、体勢が崩れそうなのを必死に堪える葛葉は苦しそうな声で喘いだ。

 が緋月には聞こえていないのか「とゅーしお〜葛った〜ん」とキス顔で迫って来て、さらに体勢は悪くなっていった。


「―――完全に出来上がっているね」


 そんな時、葛葉の背後から声が掛けられた。

 振り返ればそこにはワイングラス片手に、()れた白衣の葉加瀬がいた。


「お、お仕事終わったんですか……?」

「うん、つい先程ね。オリアギルド支部総力戦で挑んでついさっき片付いた。……私以外の職員はきっと倒れてるんじゃないかな?」

「……お疲れ様です……本当に」


 葉加瀬の口から告げられる並々ならぬ惨状に葛葉は真顔になって、葉加瀬のへ労いの言葉を掛けさせてもらうのだった。


「この宴会が始まってもう四時間経っているけど、君たちはまだ飲むのかな?」

「……私はまだまだ飲めるので」

「ふん、それじゃあ律ちゃんと、緋月は休ませてあげた方がいいかもね」


 ピンっと葉加瀬の人差し指がある方向を指した。

 そちらへ目を向けると、


「わははは〜‼︎ もっとくらはいっ‼︎ 私、全然飲めますのでぇ‼︎ ―――うっ、おぇ」


 家宝『虎徹』を振り回し、周りにいる酔っているはずの冒険者達から宥められる律がいた。嘔吐いて吐きそうになり口を抑えて俯き、呻き声を上げながら再び酒のおかわりをし始めた。


「……あ」


 目の前の緋月に夢中で、他のことをすっかり忘却していた葛葉は小さく声を漏らした。


「……ふっ、危機に陥っている人が居るんだ、【英雄()】の出番じゃないかな?」

「うぅ、不甲斐なしです……」


 仲間の状態をちゃんと確認できていなかった葛葉にも責任はある、【英雄】として不甲斐なし、葛葉はぽやぽやとしか顔の緋月を椅子に座らし、急いで律の下へ急行した。

 その背中を眺めていた葉加瀬はワインを呷り、眠そうな緋月の頭を撫で、目を細めてぼそっと、


「よかった……ね」


 やっておきながら恥ずかしくなったのか葉加瀬は口ごもりながらも最後まで言い笑みを浮かべた。


「……葉加瀬ぇ?」

「ん? どうかした?」


 唐突に緋月が葉加瀬の名を口にし、葉加瀬は椅子に座りながら返事を返すと、


「えへへ、最近……ずっと楽しい……よ。だからねっ……もう、心配……しなくて、いい、よ?」


 うとうとと今にも眠てしまいそうな緋月が、崩れた微笑みと共に葉加瀬へと語り掛けたのだった。


「……」


 その顔と、その言葉に、葉加瀬は言葉を失った。しばらくの間、沈黙が続く。


「あれぇ……葉加瀬ぇ?」


 なんの反応がないことに疑問を持った緋月が、頭に指を当てて首を傾げ、固まっている葉加瀬の名を呼ぶ。

 だが葉加瀬は何も言わない。何も言えない。

 そんな時だった、


「緋月さん、立てますか? もう休みましょ!」

「ん〜?? 休むゅう? なんへー?」

「酔い潰れてるからです!」


 疑問符を浮かべながら顔を顰めた緋月だったが、葛葉は強引に緋月のことを引き摺って行くのだった。


「……これをもらえる」


 葉加瀬はしばらくしてやっと動けるようになった。それでいの一番に口にしたのは、手元にあったカクテルを指差しながらおかわりを頼むことだった。

 気怠げな女性のウェイトレスが空になってるのを持っていき、思ったより早くカクテルは持って来てくれた。

 グラスを手に取りカクテルを飲み込んだ。


「―――っ。……?」


 喉が焼け落ちたかと思うほどのアルコールに、葉加瀬は思わず吹き出しそうになるが、なんとか堪えグラスをゆっくりと机に置いた。

 そして少しの間考え、近くを通ったウェイトレスに声を掛けた。


「すまないが、これを飲んでた子が居たと思うが……何杯飲んでいた?」

「えぇっと、正確な数は……。ただ発泡酒を飲み終わったらすぐにそれを飲んでましたよ」


 葉加瀬の答えには直接的ではないが、間接的に答えを言ってくれたウェイトレスに葉加瀬は感謝を述べた。

 発泡酒の次からこの度数が高いだろう酒を飲み続けているはずの葛葉が、何故あそこまでシラフに近いのか葉加瀬は謎だった。

 疑問に埋め尽くされる頭の中、感謝を述べたウェイトレスが何か言い残したのか戻って来て、


「そう言えば、そのお酒かなり度数お高めですので気をつけて下さいね。……もう飲みました?」


 そう言って来たウェイトレスに葉加瀬は尋ねた。


「……度数は?」

「えぇっと40だった気が」


 その言葉を聞いた葉加瀬は、ウェイトレスから視線を外しグラスを見た。


「ほぼウイスキーと変わらない度数を四時間ぶっ続けで?」


 その事実に葉加瀬は言葉を失った。

 そして頭の中ではシラフの葛葉の顔が浮かんできた。


「???」


 葉加瀬はますます混乱するのだった。

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