七話 宴会は大盤振る舞いで
お風呂上がり、葛葉は五十鈴に髪を梳いてもらっていた。なお梳いたとしても葛葉の髪質だと、必ずボサボサとした癖毛になってしまう為意味はない。
が無意味ではない、多少なりとも髪の毛のケアにはなっているのだから。
「……葛葉様のお髪は、お風呂上がりだとストレートになりますね」
「ん? そだね、綺麗なストレートにね」
洗面所の大きな鏡に映る自分の髪に目を向けながら、葛葉は確かにと今更気が付いたのだ。
「でもすぐボサボサになるんだよね」
「……あれはきっと何か魔法が掛けられてると思います」
毎日懇切丁寧に梳いている五十鈴からしたら、悔しいのだろう。毎度毎度丁寧に梳いているにも関わらず、ボサボサの癖毛となってしまうことに。
「そんなニッチな魔法あるぅ?」
ニッチ過ぎる魔法がある可能性が浮上するが、とりあえずは支度を済ませようと、葛葉が立ち上がった瞬間。
ボンッと変身するように髪の毛がボサボサになってしまうのだった。
「……えへっ」
「魔法……?」
ボサボサになった髪の毛に絶句する二人は長い沈黙の後に、ニッチな魔法の疑いの可能性が上がるのだった―――。
ガチャっと屋敷の鍵を閉め葛葉達はギルドへ向かい始めた。宴会の準備はすでに完了し、あとは葛葉達がくるのを待つのみ。
自然に段取りは緋月から聞かされていたため、ちょうどいい時間に出ることができたのだ。
葛葉を先頭に鬼丸、律、五十鈴と並んで歩いてゆく。
「葛葉よ、どうじゃ? 似合っておるかのう?」
先頭を行く葛葉に鬼丸が着ている服の肩部分を持ち上げ声を掛けた。
鬼丸はいつもの服とはちがって、今着ているのは真っ黒な貫頭衣だった。
「うん……似合ってるけど、ほんとにそれでいいの?」
「むゆ?」
鬼丸の着ている貫頭衣を見て、葛葉は何度目かになる疑問をまた、投げ掛けた。
なぜなら鬼丸の着ている貫頭衣は、横が全く隠されていないからだった。
「すんごい露出……」
横から見える鬼丸の横っ腹や、腕を上げた時の脇、ブラの代わりのサラシや腰が丸見えだったからだ。
「のじゃロリが着ていい服じゃない……」と呟く葛葉たったが、
「え、葛葉さんがそれ言うんですか?」
という律の鋭い一言により轟沈。自身の服がどう言うものなのか忘れていた葛葉には特大ブーメランが刺さるのだった。
そんなやり取りを眺めていた五十鈴はボソッと、
「この街には変態が多いですね」
と呟いた。
そんな風にギャイギャイ騒ぎながら歩き続けて10分ほど、葛葉達はギルドへと着いた。
葛葉が律達の顔を一瞥し、皆が頷くのを確認すると、両手で扉を開けるのだった。
するとパンッと連続的な破裂音と共に、バサッと垂れ幕が降ろされた。垂れ幕には『祝! 葛葉&五十鈴のレベルアップ‼︎』と書かれていた。
葛葉達はその光景にポカン……と口を開け固まっていた。破裂音の正体、クラッカーを手にしている冒険者達は葛葉達へ声を掛けたり、すでに酒を飲み始めてる者までいた。
「……緋月さん?」
「ん〜?」
葛葉は隣にいつの間にか立っていたがいつものことなので気にしないが、緋月に一つ尋ねた。
「ここまで大掛かりとは聞いてないんですけど」
「あれ? そだっけ? まぁままぁま、細かいことは気にしなさんな! ささっ、どうぞどうぞまずは一杯!」
なぜか下手に出てくる緋月に背中を押され、葛葉は席に座らされた。それは律達も同じだった。
「それじゃあ葛っちゃん達のレベルアップを祝しまして‼︎」
『かんぱーい‼︎』
音頭をとった緋月が机の上に飛び乗り、発泡酒の注がれたジョッキを掲げて盛大に乾杯を叫ぶのだった。
緋月の乾杯と同時に冒険者達も叫び、すぐにジョッキを呷った。
その場の全員のジョッキから発泡酒が消え、おかわりを求める声で溢れ返った。
「ノリが分かんない」
一人取り残されている葛葉は状況の理解が追いついていなかった。
「鬼丸……は相変わらず好き放題、律も戸惑ってる……五十鈴は傍に居る」
「葛葉様のお側は私だけのもの―――」
真隣に居た五十鈴の言葉が最後まで発さられることなく途切れたため、葛葉が横に顔を向けると、
「ほらぁ! 飲むわよぉ‼︎」
「今度こそ勝つんりゃから!」
「え、あの……!」
ズリズリと既にできあがっている酔っ払い女性冒険者に引きづられていく五十鈴が居た。
次第に五十鈴は抵抗をやめてなされるがままズリズリと引きづられていってしまうのだった。
「五十鈴のほんとの嫌そうな顔初めて見た」
なんと無表情になるらしい。
その様を眺めながら葛葉がジョッキに口を付けた時だった、
「やっはろ、葛っちゃん」
背後から緋月に声を掛けられたのだ。
「緋月さん……。はぁ、説明して下さい。どうしてこんなどんちゃん騒ぎなんですか? いつもよりも騒がしい気が……」
「ん〜まぁ皆んなはしゃぎたい気分なんだよ」
緋月の要領の得ない回答に、なんですかそれと葛葉は不満気に返した。
「あ、そだ。葛っちゃん家にさ一っちって来てない?」
が緋月はそんなのは無視して、新しい話題を引っ張り出してきた。
「にのっち……一さんですか? それなら緋月さんがくるちょっと前に来てましたよ」
葛葉が疑問符を浮かべながら回答すると、緋月は少し悩んだあとニマッと笑って葛葉の隣に座ると、
「そう。んー、ま、あの子次第か。とにかく飲もうぜ、葛っちゃん! 今夜は寝かせないぜ?」
洒落た雰囲気を醸し出し、洒落て言葉を吐いたのだった。
それを見ていた葛葉は「ふーん」と感心して、葛葉は一言尋ねた。
「緋月さんて強いんですか?」
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