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三話 修復不能な絆

遅くなってしまいました……。

「はぁ……はぁ……もう無理〜……」

「わははは、さては葛っちゃん……体力落ちたね?」


ギルドに備えられている特訓場にて、バテて大の字に寝っ転がる葛葉と、それをしゃがみ込み葛葉の胸を人差し指でツンツンする緋月。

ツッコミたいが息をしないと死ぬ……。と言った状態なので、なされるがままだ。


「がんふぁりまふね〜」

「君も一緒に特訓しないのかい?」


スイカを一口二口食べ、口の中に食べ物が残っているが喋る律。そんな律の横で、紅茶を啜っていた葉加瀬が律へ顔を向け、話し掛ける。

特訓場は何故か和風で、古風な館の中庭みたいな感じだ。ちゃんと広く、バスケットコート二つ分位の広さがある。

休憩できる和室と中庭の間に縁側があり、律達はそこでくつろいでいた。


「いや〜私には無理ですね〜」

「……?」


再開した二人の戦いを眺めながら律は言う。木剣の剣戟が響き、地面を掠り粉塵を巻き上げ、風を切り裂く。

緋月の攻撃を紙一重で交わし、交わし、交わし続ける葛葉。そんな芸当ができるのは、葛葉の敏捷値が以上に高いからだ。


「私にはあそこまでの敏捷は無いですから……。開幕速攻木剣を食らっちゃいますよー」


オールランダーは何かに特化しているのでは無い、冒険者の職業の全職業との能力値が適正なだけで、敏捷特化な葛葉とは違って、緋月に瞬殺される未来しかない。


「ほ〜」

「だから私は、ここで二人の戦い方を見て。そして実践の時に活かせるか、頭の中で考えるんです!」

「ふむふむ、イメージするのは良いが。例えそれが必ずしも、イメージ通りの事は起きないからね」

「……はい。もう……何回も経験しました」


イメージし、出来たとしてもそれは虚構だ。現実でその通りに成れば、戦争なんて起きやしない。争い事は起きない。

イメージとは、だったら良いな〜と言うその人の願望にすぎない。叶う事の無い、叶えられない願望だ。

イメージ通りのことがもし現実に起こるのだとしたら、それはどんなチート能力よりも強力だろう。

例えば、自分は絶対に死なないとイメージし叶うのなら簡単に不死になれる。イメージがそのまま現実になれば化学だって要らない。


「頭の中で上手くいっても……目の前には上手くいかないで、取り返しの付か無くなった事実があるだけです」

「……君は――」


目から光が消え、何かを悔いるような、そんな虚な目をする律に、葉加瀬がもしかしてと思ったことを口にしようとし、


「ふぅ〜良い運動になったぁ〜!」


と空気が読めない緋月が、にぱぁっとしながら戻ってきており、縁側に座る。葛葉と言うと、膝と手を地面に突き、四つん這いで撃沈している。

この一週間の間でかなり体力が落ちたみたいだ。まぁ無理もない、五日間はベッドの上だったのだから。


「大丈夫ですか〜!」


律が、葛葉の下に駆け寄り肩を貸してあげ、こちら側に戻ってくる。

汗だくな葛葉は、今日初めてこの背中と横乳がモロ見えの戦闘衣装に感謝をしたのだった――。




「……」

「……」


ギルドの病室にて、空気が最悪な沈黙が続いていた。病室の前を通るギルド職員達が、どんよりとした空気が這い出てくる病室前を、足早に通るほどに。

中に何が起こっているのかと言うと、玄武と五十鈴が病室に居るだけだ。


「……」

「……」


玄武は全身包帯で、ほぼ簀巻きに近い状態だ。あの大怪我だったのだ、無理もない。

右腕と左脚はポーションや、回復魔法でも復元出来ず欠損したまま。唯一残った右脚もそう簡単には動かせない。

もう二度と、玄武は戦う事は不可能だろう。


「――ねぇ」

「……ど、どうした?」


遂に沈黙が破られ、二人が会話をし始めた。最悪な空気が少しだけは薄れた。

玄武は五十鈴の顔を見れない。掛けられた声に、玄武は返事を返したが、それは窓の外に顔を向けたままの状態だ。

孫の顔を見る資格がないのだ。自分がしてきたことを、そう簡単に無かったことになど出来やしないのだから。


「お爺ちゃん……」

「――っ」


一向に顔を向けてくれない玄武に、五十鈴は顔を悲しみに歪めながら悲痛に満ちた声で、懐かしい呼び方をする。

もう二度とそう呼ばれる事はないと、そう思っていた玄武にはあまりにも衝撃的な事だった。


「い、五十鈴……?」


玄武が五十鈴の方へ顔を向け、五十鈴の顔を十三年ぶりに見ると、両の目から涙を流し、潤んだ瞳で真っ直ぐと玄武の瞳を見つめる。

玄武が狼狽、どうするれば良いか迷っていると、ふと気付いた。五十鈴が手を太腿に置いているのを、そしてその手に握られている物に。


「五十鈴、それは……」

「ごめんね。中見たよ」

「……そうか」


それは玄武の日記だった。古臭く、ボロボロになった日記。それもそうだろう、長年使われていた日記なのだから。


「つ、つまらなか――」


玄武がそう言おうとした時だった。

五十鈴が勢いよく立ち上がり、玄武の頭を強く抱き締める。

一瞬何が起きたのか、玄武には理解でき無かった。何故なら、無理矢理親から引き離し、牢獄じゃないとは言え幽閉紛いの扱いをさせたのだ。

これでまだ好かれている、なんて考えるのは傲慢だろう。


「五十鈴、何してる……」

「ごめんね、お爺ちゃん……辛かったね」


瞬間、玄武は族長になったニ百年間の苦悩が、嘘のように感じた。族長の位に立ち、かつての主君だったとしても、村の住人から贄を選ぶなど……どんな拷問よりも苦しく、悲しかった。

贄に選ばれるのは、巫女と同等の力を持った少女達だ。まだ生まれて十数年しか経っていない少女達を贄にするなどと、正気ではやっていられない。


「……すまないな、五十鈴。許せとは言わない……だが、本当に、本当に……すまなかった」


玄武は――かつて鬼王の盾と言われた男は――孫に抱かれ、初めて涙を流した。

読んで頂き、ありがとうございます!

今回はほぼ日付が変わるダイニングでの投稿になってしまい、申し訳ございません。

言い訳ですが、最近は特に忙しいため、投稿する時間がほぼ無いのです。ですが! 毎日投稿は崩しませんよ‼︎

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