四話 訪問者とお別れ話は唐突に
―――玄関扉を開けて固まっている葛葉の目の前には、純白色の白いの長髪の人物、一が立っていた
目元は布で隠されていて見えないが、口元は見えるため、今一がどんな顔をしているかは分かるようになっている。
微笑んでいる。
「退院お疲れ様やで〜」
そんな労いの言葉を手を小さく振りながら葛葉に掛けた。
「一さんもお疲れ様です。色々とあの後もやることがあったって聞きましたけど」
「んぁそれはもう終わっとるよ〜。うちの仕事は終了やで。報告書もきちんと提出しよったしなぁ、後はギルドが調査すれば終わりや」
「……調査?」
「おっと、言っちゃいかんかったわ。今のことは忘れてな」
葛葉が一の吐いた言葉に引っ掛かると、一はハッとして口に人差し指を当てた。
顔の半分以上が隠れているのに、ドキッと来てしまい、葛葉はすぅっと息を吸った。
「……今は葛葉ちゃんだけなん?」
「え、いや、みんな居ますよ?」
「……ほうか。あいや、辛気臭いのは嫌やし……」
葛葉の背に広がる家の中を覗き込んだ一が、口角を下げ何やら葛藤していた。
葛葉は「どうしたんだろ」と一の悩む姿を眺めるのだった。
「うん、せやね。……葛葉ちゃん。うち、武者修行の旅に出るつもりやねん」
「……ぇ」
一の唐突なカミングアウトに葛葉は頭の中が真っ白になってしまった。
たがよくよく考えれば、一とはそういう人物だった。今までは各地を転々とし、旅をしていた流浪の旅人だったらしい。
故に、葛葉には何も掛ける言葉が浮かばなかった。
「……」
だがただ一つ、掛ける言葉を見出した。
「五十鈴達には何も言ってあげないんですか……?」
葛葉は眉を下げ悲しそうな顔で一に尋ねるのだった。
一は葛葉達にとっては尊敬する人なのだ。あの戦いを見てそうならないわけがない、沢山助けてくれたのだから。
故に葛葉は悲しいのだ、五十鈴や律、鬼丸に別れの言葉も無しに行ってしまうのは。
「あはは、痛いところ突くなぁ……。んでも、うちは決めたんや、辛気臭いのは嫌やって。今生の別ちゃうんやからさ」
「でも……」
「……そんな心配せんでもまた帰ってくんよ、待っとき。うち、葛葉ちゃんのこと好きやし、五十鈴ちゃん達も好きなんやから!」
むにむにと葛葉のやわっこい頬を両手で弄り回し、一が微笑むと同時に後ろへ下がっていった。
「旅出る言うても今ちゃうくて、二日後やから……うちも鬼ちゃうし、五十鈴ちゃん達がどうしても言うなら最後に話しよ思とるで!」
後ろ歩きしながら手を振りつつ、少しだけ思うところがあったのかそう言い残して、屋敷の敷地から出て行ってしまうのだった。
葛葉はその最後の言葉に笑みを漏らし嬉しそうに、玄関扉を閉めるのだった……。
―――次第に遠く小さくなっていく葛葉の顔を見ていた一は胸が締め付けられるようだった。
「はぁ、うち……やっぱアカンなぁ」
ダメダメな自分を嘲笑いながら、背を預けていた塀から離れ歩き出した。
武者修行の旅は必ず成し遂げなければならない。
その果てにきっとより良い結果が待っているのだと、一は信じているからだ。
「ウチが頑張らなアカンねん」
決意に満ちた声を吐露しつつ、一はメインストリートへ向かって歩いていく。
二日後の出立の準備のために―――。
―――扉を開けると、緋色の髪を後ろで一本で結んだ元気溌剌な笑顔の少女がこちらを見上げてきていた。
「よっす、葛っちゃん!」
「違う変態だった」
手を上げ葛葉に声をかけた緋月だったが、すぐにバンッと扉をあからさまに強く締められて呆然とした。
そしてすぐにハッとし、コンコンとココンココンコンコンコンとリズミカルに扉をノックする。
「ちょっと葛っちゃぁん⁉︎ そりゃ無いよぉ⁉︎ あと、心の声が漏れてた気もするよ⁉︎」
ノック音はますますリズミカルになり、遂にはジャーンというシンバルの音が―――、
「―――いや、どっから持ってきたぁ⁉︎」
ダンッとさっきとは違う勢いで扉が開かれ、葛葉が飛び出した。
緋月は全くと頬を膨らませながらシンバルを虚空庫の中に入れ、葛葉の身体に飛び込んだ。
「ボクを虐めるのもほどほどにして欲しいよっ」
「あー……う、はい」
「ねぇ、何でそんなに嫌そうなの……⁉︎」
かなり言い淀む上に苦しそうな声に瞳孔をかっぴらいて葛葉のことを見上げた。
が、葛葉は緋月とは目を合わせようとはしなかった。
「はぁ、ボクヘラっちゃうよ?」
「ふっ……すいません、緋月さん。からかい過ぎました」
緋月が顔を暗くさせたところで葛葉が吹き出しお腹を抱え、クスクスと身体を震わせ目端に涙を浮かべながら、舌をちょっと出して謝るのだった。
「……ぼ、ボクがからかわれた⁉︎ ……そ、そんなバカなっ」
「日頃の恨みですっ」
葛葉のネタバラシにショックを受け、緋月は頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
「こりゃ一本取られたねぃ」
「あたー」と額を叩き緋月は笑うのだった。
……がそんな二人の微笑ましい姿を腕を組み貧乏揺すりをしながら、下唇を噛み締め額に怒筋を露わにして眺める者が階段にいた。
それはもっちのろんなことに鬼丸だった。
「……ケッ‼︎」
不愉快だと一発で分かる顔で、苛立ちを露わにするのだった。
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