三話 報告
―――カップを机に起き縁を指でなぞり拭い、葉加瀬は目を通していた書類を机に置いた。そして深々とため息を吐き目頭を指で抑えた。
「葉加瀬〜どったの〜?」
「ん? いや、目障りなニートが居てね、ため息が溢れただけだよ」
「そりゃ大変だね」
ローテーブルに突っ伏する緋月を見て葉加瀬は嫌味を言うが、緋月には何のダメージも入いらなかった。
「んで、どったの?」
そう緋月が改まった声で再び尋ねた。
今度はあっち側も本気なのだと察した葉加瀬は、見ていた書類を緋月の下に魔法で持っていった。
「報告書?」
「一からのだよ」
書類には簡潔にそしてわかりやすく一が発見したものが記載されていた。
一はギルドからの直接的な依頼を受け、あの屋敷周辺一帯の捜査&残党殲滅を行なっていた。
その過程で発見したものが葉加瀬を悩ませていたのだ。
「今回襲撃してきたのは山賊と、その山賊を傭兵として雇った暗殺ギルドの大規模パーティー……なるほどね」
緋月も疑問に思っていたのだ。ただの山賊相手にあそこまでやられるものなのかと。
「暗殺ギルド……帝国か〜」
度々名の上がる帝国。実力至上主義がモットーの脳筋バカ国家であり、王国とはそれなりに仲が悪い国でもある。
色々と黒い噂が絶えないが、最近はよく王国領で問題を起こすため、ついこの間外交官が話し合いをしに行っていた。が、暗殺ギルドと帝国は直接的な関係ではない。
今回はもしかしたら関わっていないかも知らないが、暗殺ギルドによって王国の重鎮を狙われた。関わっていないという可能性はゼロではなくなってしまったのだ。
「……っ、え」
「……そう。帝国なんてどうでもいいんだ。問題は―――」
緋月が読み進める書類に記載された文字。
葉加瀬がため息を吐いた真の原因。
『山賊残党が"魔核石"これを保持。残党殲滅後、山賊の根城の捜索の要請を申告する』。
「魔核石……誰でもお手軽に好きな魔法を扱えれる夢のような石。一つの値段は2000万。ただし格安で入手する方法が存在する、それは……」
「―――魔導王国内での購入」
魔導王国、それは人類が70年前から今の今まで激しく戦いあっている敵国。魔王軍とは、魔導王国の保有する軍隊なのだ。
「……はは、今までのはまだ見過ごせていたけど……こぉれ、不味いね」
「あぁ」
今まで、魔王軍が手を出してきたのは鬼族の里と、行方不明となったカナデの生まれ故郷の二つ。前者は王国の国民というわけもないのでそこまで問題にはならなかった。
だが後者は一応問題にはなったのだが、王の体調不良が被り後回しにされていた。
だが今回、山賊と魔王軍の関与が明らかになれば、無視できなくなる。
「まさかボクたちの代で始まるかもしれんとはね……」
「戦争……」
考えたこともない一大事が起こってしまうかもしれないという現状に、二人は実感を持てていなかった。
「やだな〜。もうそろそろ命名式だってのに」
「何もなければいいがね。とりあえずは職員の報告書を待つとしよう」
「イベントが多いのに〜」と不満たらたらな葛葉が足をバタつかせ不満を表現し、葉加瀬がそれを見て苦笑する。
いつもの大体同じ光景。
ギルド長室にも「いつも」が帰ってきたのだ。
「じゃあ、仕事しようか」
「……」
溜まった書類に目を向けた葉加瀬がそう口にすると、動きを止めた緋月が姿勢を正し、ニコッと笑みを浮かべた。
そして、
「やだ」
清々しい表情で断るのだった―――。
読んで頂きありがとうございます!!
面白いと思って頂けましたら、ブックマークと評価をお願いします!!