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TS化転生っ娘は、ちょっとHな日常と共に英雄になるため、世知辛い異世界で成り上がりたいと思います!  作者: んぷぁ
第七部 一章——帰ってきた我が家、安らぎの日々——
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一話 病室で

 そよ風が吹き抜けカーテンが靡く病室の中、ベッドの上で髪飾りを眺めるアイシュリングに声を掛けた。


「あの」

「……」

「お体は、大丈夫ですか……?」

「……うん、大丈夫だよ」


 恐る恐る聞いた葛葉だったが、アイシュリングの声音を聞いてホッと安堵した。


「クロエが……クロエ様が言ってましたよ、早く戻って来てって」

「……そうか。でも、私にそんな資格あるだろうか?」


 一向に葛葉に顔を向けずにまたもや資格やら何やらの話をし始めるアイシュリングに、葛葉は苦笑して口を開いた。


「資格なんてないですよ。アイシュリング様はクロエ様のたった一人の親ですし、それにお願いされてました」

「……あぁそうだったなぁ。そうだ」


 あの空間でアイシュリングの亡き妻、ソフィアにアイシュリングはお願いされた。クロエのことを。

 それを見ていた葛葉にはアイシュリングを奮起させる義務がある。

 アイシュリングがここで折れたままならば、クロエが救われない。

 思いは決したのか、一度窓の外を眺めてからアイシュリングはゆっくりと葛葉に身体を向け、手に持っていた物を渡して来た。


「ありがとう【英雄】。君は本物だ……これを」


 アイシュリングが手渡してきた物は、葛葉が病室に入ってきたとき眺めていた髪飾りだった。

 ラテン十字の黒色の髪飾り。

 それを受け取り葛葉はアイシュリングを見た。


「これはソフィアが着けてたものでね、僕がお守りとして上げたものなんだ……。君が持っていて欲しい」

「い、いえっ。受け取れません、そんな大事な物っ」


 アイシュリングの話を聞き、葛葉は全力で拒否するが、アイシュリングは顔を横に振って葛葉の手の中の髪飾りを見つめ言った。


「あの時、僕はね君とソフィアが重なって見えたんだ。かつて【閃光の黎明(アルバ)】と称えられ、先陣を切って、魔獣を倒してきたあの姿と」


 その光景を思い出すかのようにアイシュリングは葛葉の手の中の髪飾りを眺めた。


「……【英雄】と言う責務を担った君も、きっと戦う時が来るだろう。どうか仇を取ってくれ、その髪飾りを身に着けて……」

「っ、それって……」


 アイシュリングのその言葉に葛葉が詳しく聞こうとした時だった。


「―――葛っちゃ〜ん、葉加瀬が呼んどるよ〜」


 ガラガラと病室の引き戸が開かれ、緋月がわざわざ葛葉の隣までやってきて言った。

 その行動に葛葉は疑問符を浮かべ、後ろ髪を引かれつつも頷いて病室を後にするのだった。


「……余計なこと言ったね」

「駄目だったかな?」

「いいや、時間の問題なのはボクも理解してるさ。けど早いの、だから駄目だよ」


 静かな声でありながらどこか怒ってるかのような声で、緋月はアイシュリングに釘を刺すのだった。


「じゃ、ボクは行くよ」

「……ああ」


 緋月の背中を見つめつつも、アイシュリングは何も言わずに見送るのだった。




 ギルド長室の扉をノックし、葛葉は腹を括りながら声を待った。


「……ん?」


 けれども一向に聞こえて来ない返事に葛葉は首を傾げてドアノブに触れた。ガチャっと扉を開けて恐る恐る中を覗き込むと、


「……っ、葉加瀬さん⁉︎」


 扉の真ん前でぶっ倒れている葉加瀬を見つけた。

 コーヒーカップを持ったまま倒れたのかコーヒーをぶち撒けていて、床にはコーヒーで『過労死』と言う達筆な字が書かれていた。


「だ、大丈夫ですかっ⁉︎」


 倒れている葉加瀬の身体を起こし口下に手を翳す。どうやら息はしている、死んでは居ないようだった。

 だが顔色が悪く、目の下には大きな隈が。

 ふと書斎机に目を向ければそこには大量の書類があって、ローテーブルにも書斎机の量とさほど変わらないほどの書類が置いてあった。


「ひ、一人であれを……⁉︎」


 いくらLv.8の葉加瀬だろうとあの量の書類を片付けていれば限界はくるだろう。実際にきている。


「っ、緋月さんを呼ばないとっ!」


 葉加瀬の事を一番理解しているだろう人の顔を思い浮かべ、緋月の事を探しに行こうと立ち上がろうとした時だった、


「―――呼〜んだ?」


 と葛葉の耳元でコンマ数秒前まで居なかったはずの緋月が囁いてきた上、はむっと唇で甘噛みしてきたのだ。


「あ、あれ? 葛っちゃん?」


 そんな緋月の新しい新技は流石の葛葉も、


「てか葉加瀬⁉︎ わっと、え? 葛っちゃん? お、おーい?」


 耐えれるわけがなかった。


「え……。ちょっと二人共⁉︎ ヤバっ! ヘルプミー‼︎ 誰かー‼︎」


 気を失った二人の事を抱きながら緋月は他の職員を呼ぶのだった―――。

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