四十二話 弾丸となって
すみません、少しトラブルが起きてしまいました。
結局日付が変わってしまいましたね、すみません!
この四十二話は9月3日の分です、4日の分は本日必ず投稿いたします!
「―――なぁ、ほんまにええのん?」
「あぁ、構わない。敵対しているものは全て殺してもらっても」
ガラガラと車輪の音が隣でうるさく音を立てているが、大地を蹴って馬車と並走をしていた一が確認を葉加瀬へ求めた。
「遅いな」
「あんまし無茶言わんといた方がええで。お馬ちゃん達もようやっとるんやからさ」
馬車を引く馬を見つつ、葉加瀬の遅いと言う言葉に苦笑を浮かべ、一はやれやれと肩をすくめた。
「うむ……。車輪が邪魔か」
「へ?」
一の間の抜けた声の直後、かなり大きな音を立てて木造の馬車の車輪が外れたのだ。
四つ全ての車輪が。
だが馬車は横転することなく、難なくそのまま走行していた。
「……な、なんやこれ」
「魔法で浮かしている、これなら問題ないだろう。ほら、馬も楽そう」
不可思議な現象に一が驚いていると、葉加瀬はなんてことないように言うのだった。
「あと、どんくらいなん?」
「あと馬車で50分と言った距離だった。うん、この速度ならあと20分ほどと言ったくらいだろう」
葉加瀬の予想を耳にした一は一気顔がゲンナリとし始めた。三十分も短縮できる速度で走らないといけないからだ。
「ふぃ〜、そないな速度で走らんといけんの嫌やわ〜。もうすでに疲れてんけど〜」
一のそんな悪態を聞いた、葉加瀬は顎に手を合わせ数秒考えてから、
「うむ……。………頑張って」
葉加瀬らしからぬ可愛らしい顔で一に応援? をするのだった。
「……え、なんそれ。も一回よ」
「…………断る」
「も一回! も一回っ‼︎」
葉加瀬の珍しい顔に一はもっと見たいと懇願するが、葉加瀬は顔を真っ赤にして明後日の方向を向いていた。
全てが新鮮で珍しいこの状況に、一は一層、そうやって懇願するのだった―――。
鬼丸達の目の前では葛葉による高速戦闘が繰り広げられていた。
それは今までの比ではなく、明らかに異常な動きと速度をしていた。
「……【黎明の閃光】」
その様を眺めていた緋月が無自覚にボソッと声を漏らしていた。
まさしく閃光のように葛葉は軌跡を残して動いていた。悪魔に攻撃させる暇も与えず、ついには悪魔の腕を切り落としてしまったのだ。
「っ。でも、あれじゃ」
腕を切り落とした程度ではあの悪魔を倒すのは不可能。一発で終わらせないといけない、と思っていた鬼丸達だったが、葛葉はそう考えてはいなかった。
葛葉の考えはこうだった、悪魔の再生速度よりも早く剣を振り再生が追いつかない斬撃をすればいいのだ、と。
「存外あやつも脳筋じゃな」
葛葉の考えを理解した鬼丸は苦笑を浮かべ、やれやれと肩をすくめるのだった。
そんな傍では緋月が「あ゙〜っ」とがなり声を上げつつヘタッと座り込んだ。疲れたーと空を仰ぎ見て、はぁと深々とため息を吐き葛葉を見た。
「強くなったね〜」
悪魔相手に余裕そうな葛葉を見て緋月は、少し前ならあり得ないかったよ、と胸中で呟いた。
葛葉の成長は緋月にとって天にも昇る気持ちになれる事だった。だが同時にそれとは反対の気持ちも抱いていた。
「まぁでも今は、単純に見届けよっか」
愛弟子の成長を、この戦いの終着を―――。
―――悪魔の拳が顔面スレスレを通っていくが、葛葉はそれを最小限の動きで回避しては攻撃をした。
葛葉の『創造』した剣が深く刺さり、悪魔の腕に大きな裂傷を刻んだ。そして刺さっていた剣を引き抜き、悪魔の腕を断つ。
一瞬の隙もない上に数多くの傷を付けられるため悪魔の再生も分散されてしまい、再生速度が著しく低下していた。
(っ。もっと!)
悪魔の魔法攻撃が葛葉の肩を擦り肩が抉られるが、『想像』で瞬時に再生させ、戦闘の速度を落とさぬよう能力をフル稼働させた。
足を切りつけ、腕を落とし、胴を裂く。
ジワジワと付けた傷は時間が過ぎると共に塞がっていく。だが塞がってすぐにまた傷を付ける。
悪魔は再生したとしても、またすぐに再生をしなくてはならなくなる。
(もっと速くっ)
葛葉は脚が使えなくなるのを承知で更に速度を上げた。弾丸のようなスピードで悪魔の身体を削っていく。
辺りは悪魔の血で海が出来ていた。
肉片も落ちており凄惨な光景だ。
だがまだ戦いは終わらない。消耗戦とかしたこの戦い、どちらが折れるかが戦いの鍵だ。
ガキンッ、そんな音と同時に葛葉が地面に着地した。
悪魔の攻撃を喰らい飛んだがどうにか着地したのだ。
「……っ。―――【紅焔鎧】」
それは今の今まで使っていなかった葛葉の魔法。
身体強化魔法である『紅焔鎧』を使えば、先ほどよりも速く強く戦うことが可能になった。
「ここから……」
本当の戦いが始まる。
葛葉が掻き消えたかと思うと悪魔の背中に大きな斬撃がやって来た。
振り返るが誰もいない、その時、肩から腰までを袈裟斬りで裂かれた。
血が吹き出す。どからくるのか、どう攻撃しているのか不明なその攻撃に、悪魔は常に周囲を警戒するのだが。
「っ‼︎」
その警戒網を超高速で過ぎてしまうがために、察知することも不可能だった。
「これで終わりにするっ‼︎」
葛葉の声が聞こえたかと思えば、悪魔の視界はぐらっと傾いた。片足が消えていたのだ。
正確には斬り飛ばされていた。そしてそれはすぐにもう片方の足でも同じだった。
次は両腕、その次は胸から下の胴、そして肩。
もはや残っているのは首と頭のみだった。
だがそれすらも再生すれば問題はない、だがそんな時間を与えるほど葛葉も愚かではない。
ほぼ肉塊と化した悪魔の眉間に剣を突き立てたのだ。
そして、
「緋月さんっ‼︎」
大跳躍した緋月が光を放つ大剣を目一杯に振り被った光景が青空にはあった。
そしてその攻撃は一瞬にしてやってきた。
その攻撃が炸裂すると悪魔の身体は蒸発するようにして消し飛んだ。屋敷も崩落寸前なダメージを負い、パラパラと石片が落ちるのだった。
白煙の中、ゆっくりと立ち上がった緋月が大剣を担ぐと戦いは終わった。
悪魔の身体は塵も残さずに消し飛んでしまったのだ。
「……虚国の王。次はまともな王になれるといいね」
空を仰ぎ見る緋月はそう口にするのだった。
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