四十一話 大技と回帰
すみません、昨日の投稿なのですが諸事情により行えませんでした。報告も行えなかったので、大変申し訳ないです!
なので本日の投稿は昨日の分(この四十一話)と本日分の二回投稿になります!
二回目は21時から22時半の間かと思います!
大剣と金棒が、悪魔の首に狙いを定めた。
そして鬼丸が言の葉を紡ぎ始める。
「星は廻り、勇気は蛮勇へ、大罪の贖罪を」
「あ〜ぁ、ボクも詠唱とか欲しかったなぁ」
それは鬼丸が武器の能力を最大限に引き上げる為に行う詠唱、緋月にはそれらがない為、この間は暇となってしまうのだ。
それと格好をつけたいと言うのも理由だった。
「英雄は妻子を、獅子は無辜の民を、それら二つ。許されざる蛮行、贖罪なき罪に、我は答えよう―――」
詠唱が半ばに差し掛かると金棒は纏う雰囲気を変えた。今まではただの物だったはずが、今では猛々しい炎のように揺らめく獅子の鬣のように魔力を帯びて居た。
「獅子を称えんと。獅子吼を轟かせ、眠れる獅子は今目を覚ます。―――『目覚絶王――百獣の王――』」
詠唱が終わると鬼丸は膨大な魔力を放つ金棒を構えた。その鬼丸に合わせるように緋月は慌てて構えを取るのだった。
二人が揃って息を吐くと、
「行くぞボンクラ!」
「っ、後で文句言ってやるからなぁ‼︎」
鬼丸が掛け声を放つが、それは掛け声というか暴言で、緋月は額に怒筋を浮かせつつも、屋上の外壁を踏み込んだ鬼丸とタイミングを合わせ―――飛んだ。
一瞬にして悪魔の顔面にまで跳躍した二人は、同じタイミングで大剣を、金棒を振るった。
二人の雄叫びと共に放たれた攻撃はとてつもない衝撃波を発生させた。
ドンッと重力が2、3倍になったかと錯覚する程の衝撃波を。
「っ、クロエ様っ。しっかり掴まって居て下さいませッ!」
と自身も余裕がないはずの五十鈴が、盾を外壁に突き立てクロエを守ろうと手を掴んでいた。
何秒もの間、その衝撃波は続き、屋上のありとあらゆる物全てを吹き飛ばして収まった。
「……つ、っ⁉︎」
五十鈴が盾の後ろから顔を出して、鬼丸と緋月のことを見ると、そこには頭部が消し飛んだ悪魔の姿と、雲が割れ綺麗な青空が顔出す、そんな光景が目に映ったのだ。
「……どっちが、化け物なんでしょうか……」
規格外で片付いていい次元ではない二人に、五十鈴は苦笑を浮かべて脱力するのだった。
だが次の瞬間、二人がバッと五十鈴とクロエを守るように、二人の目の前に立ったのだ。
「っ、鬼丸様、緋月様!」
「油断するでないぞ、五十鈴。此奴、まだ生きておるわ」
「うへ〜とっとと死んでくんないかなぁ〜。もうボク、へっとへとなんだよぉ〜」
二人の言葉を聞き、五十鈴は吹き飛んだ頭部に目を向けると、にゅるにゅると肉の塊が飛び出し、次第に頭部を形成していった。
「コレだけやって死なぬとは……のう?」
「なにさ……もしかしてボクが気付いてないって思ってんの〜? だとしたら傑作だぁ、天下の鬼族の巫女様の目は節穴だってなんてねぇ?」
「……ふっ、殺すぞ」
また再び怪しくなる二人の雰囲気だったが、やってくる悪魔の攻撃にそれは一時中断となった。
「んーンッンー、今のボクたちじゃ倒すのは無理だねー」
「あぁ、倒す方法は一つ。……奴を一撃で消滅させる、のみじゃろうなぁ」
二人が語るその条件は、五十鈴には倒せない理由にはならないと思った。なぜなら、先ほどの攻撃があるからだ。
「五十鈴っち、なにか肝心なこと忘れてなぁいーぃ?」
と五十鈴の考えを読み取ったのか緋月は、ツンツンと五十鈴の頬を突きながらもう一方の指で心臓部を指した。
そう。悪魔の身体にはまだ葛葉とアイシュリングが残っているのだ。
「っ」
悪魔を倒すことは現状不可能。
一番なってはならない膠着状態となってしまった。否、相手は膠着していないため、膠着状態と言えるかどうかも怪しい。
全員が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた時だった。
『―――‼︎』
悪魔が声にならない悲鳴を上げたのだ。
全員の顔がバッと上がって悪魔へと向けられた。
正確には悪魔の心臓部。
膜が裂けているのか、光がその隙間から溢れていたのだ。
そして次の瞬間、悪魔の心臓部が連続で爆発を起こした。
「……あぁ、そう。も〜っ、君はいつも遅いね」
その爆発がなにかいち早く察した緋月はクスッと笑いながら大剣を肩に担いだ。
爆煙が立ち込める心臓部から人影が飛び出してきては、シュタッとカッコよく着地を決めた。
そしてその人影はすぐに立ち上がってはスタスタと緋月達の下へ向かってくる。
その人影が鬼丸とすれ違う寸前、鬼丸は尋ねた。
「なんじゃ、もう良いのか……。わしならもっと時間を稼ぐのにのう」
「うん、ありがと」
歩いてくる人物―――葛葉の回答に笑みを向けながら鬼丸は嬉しそうに鼻の下を指で擦った。
葛葉は五十鈴の下に着くと腰に抱えていたアイシュリングを優しく寝かした。アイシュリングは気を失っているのか眠っていた。
そして葛葉が顔を上げると、五十鈴がクロエを守るような形で、クロエの前に居たため葛葉は五十鈴の頭にポンっと手を乗せた。
「五十鈴、ありがと」
「ぁ……はいっ」
優しく頭を撫でられ感謝の言葉を掛けられた五十鈴は嬉しそうに頷き返事をするのだった。
五十鈴に微笑んでから葛葉は立ち上がりながら悪魔へと身体の向きを変えた。決着を付ける、そんな眼差しで。
「ねぇね、ボクにも何かあっても良いんじゃないのかなぁ」
「え、あー、あはは。ん〜、なら……今度デートしましょうか」
「えっ⁉︎ ほんと⁉︎」
葛葉の思いがけない言葉に緋月は驚き思わず聞き返してしまった。
が葛葉が肯定すると緋月満面の笑みを浮かべた。
そしてやったー! とピョンピョンと子供のように跳ねる姿を尻目に、葛葉は悪魔に顔を向けた。迷いはなく、恐れもない。躊躇いも。
「力を貸して下さい、ソフィアさん……。」
あの優しい笑顔を浮かべる故人に願い、葛葉は『創造』を用いてヘアゴムを造りだした。
そして慣れた手つきで髪をポニーテールに縛っていく。この戦闘中、髪の毛が邪魔にならないように。
「エッッッッッッッ⁉︎」
そんな葛葉の背中を眺めていた緋月は顔を赤らめて興奮していた。
鬼丸は何故か腕を組み顔を上下に振って、自分はわかってる、と言った表情を浮かべていた。
「―――ソフィアさんから貰ったのは……憧憬。」
かつての、あの日の人々の記憶。
金色の縁に白銀の鎧に身を包み、髪を一つに纏めて立つ姿。その手には王国の宝剣が握られていた。
凛とした立ち姿は他の模範となり、市民や戦場で戦う騎士達の心強い背中となっていた。
「相打ちにするつもりは毛ほどもない。……人心を弄び、メチャクチャにしたお前を、私は決して許さない」
葛葉の纏う戦闘服が姿を変える。
軽装備から、騎士の装備へと。赤の縁の漆黒の鎧に。
虚空に手を突き出せば、何もない空間に一本の長剣が現れる。
漆黒の刀身に赤い装飾。禍々しいのではなく、華々しい美しい剣。
騎士は切先を悪魔へと向けた。
「決着だ」
そして姿が掻き消えるのだった―――。
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