四十話 合体技はロマンよな
『怖いのでしょう? また失うかもって……』
「っ、あぁ、そうだ」
妻を失ったことでアイシュリングは失う辛さと苦しさを知った。
『人はいずれ死ぬ。だから、今を大切にしないといけない。それなのに、あなたはそれを自ら放棄するんですか?』
限りある時間を大切にすることは当然、アイシュリングも承知している、だがそれ以上に辛いのだ。
「……」
『……もう時間が』
「っ⁉︎ そんな……」
広がっていたこの空間が次第に光が弱まってきたのだった。
『この空間を作り出しているのは、あなたでしょ?』
空間を一瞥したソフィアが突っ立って居た葛葉を見て、確信した顔で声を掛けてきたのだ。
「よく……分かりません……」
『優しいのですね』
「……分かり、ません」
コレが葛葉の力なのかどうなのかは。
それでもソフィアは確信して居た。
『……あなた。お願いね、あの子の事。天寿をまっとうして、皺くちゃになってからこっちに来なさい』
「あぁ、そんな……! 待ってくれ、俺には‼︎」
ソフィアの身体が徐々に空間と共に薄れていくのを見て、アイシュリングは咄嗟にその身体に抱きついた。
別れを惜しみ、別れを拒んだのだ。
だがソフィアはそれを歯牙にも掛けず、光は一気に弱まっていった。
『あなたと【英雄】にコレを送るわ。……お願いね』
弱まっていく中、ソフィアは身体を形作る光から一部をアイシュリングと葛葉に飛ばした。
真っ直ぐ飛んできた光は葛葉の身体に当たると吸い込まれるように消えていった。
「……?」
困惑して固まっていると、空間の光が消えた。再び闇が二人を包むようにやってくる。
ソフィアは消えてしまった。
「……【英雄】。この空間を解いてくれ……」
「いいんですか……?」
「あぁ。よく分かったよ。私のするべきことが」
闇が迫る虚無の空間にて二人の声が延々と反芻し消えていった。そして呟きは強く重かった―――。
―――屋敷の屋根の上、悪魔と緋月達の戦いはまだ続いて居た。
悪魔の迫り来る攻撃を五十鈴が盾で受け止めて弾き切断する。
さらに迫る魔法を鬼丸が手で掴み無力化し、緋月が大剣を構えて大上段からの振り下ろしを見舞った。
「かーっなんべんやっても! 全然ダメだねぇ‼︎」
与えた一撃はすぐさま再生させられる。
いくら有効打を与えようとも、それは有効打にはならないのだ。
「たくっ、貴様は何をやっとるんじゃ! とっとと倒さんか!」
「あぁ⁉ じゃあ鬼族の巫女様がやりゃいいじゃんかぁー‼」
二人は互いの戦い方にダメ出しを出す為、戦闘が長引く原因は悪魔の再生と今のやりとりの二つのせいだった。
「鬼丸様、緋月様……」
喧嘩を始める二人に目頭を抑えて五十鈴は悪魔の心臓部に目を向けた。
光の幕で固まる葛葉とアイシュリング。
あの閃光の後、二人はあの中に閉じ込められてしまったのだ。その上意思もないのか反応がなかった。
「クロエ様、下がってくださいっ」
「っ」
クロエに迫って居た悪魔の攻撃を盾で防ぎ、盾で反撃に出るが大したダメージとはならない。
いくら攻撃しても回復されてしまう為、ほぼお手上げ状態だった。
「「こうなったら」」
口喧嘩をして居た二人が武器を構え直し悪魔を見据えた。その上、二人の武器が淡い光を纏って居たのだ。
「合体技じゃ!」「合体技だよ!」
背中をピタッとくっつけ二人は武器を突き出した。
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