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TS化転生っ娘は、ちょっとHな日常と共に英雄になるため、世知辛い異世界で成り上がりたいと思います!  作者: んぷぁ
第六部 五章——少し過激な過激バトルスターティン!——
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三十八話 情けない理由

「……ここは」


 パチパチと瞬きを繰り返し瞼を開くと、視界全部に広がる真っ黒な何もない空間で葛葉は立っていた。


「どこ……」


 葛葉は辺りを見回すが何もない。真っ黒な虚空が延々と続く景色のみ。

 真っ黒な空間は闇とも言える。次第にその闇は葛葉の心を引き摺り込んでいく。

 恐怖がやってくる。


「っ」


 脳が錯覚する。

 平衡感覚を失い、立つことすら困難になる。

 何が起きているのか理解の追いつかない脳。

 さらに恐怖はやってくる。


「……っ」


 だが闇に光が差した。

 一筋の光が。闇を裂き、闇を払う光が。


「こ……れは」


 その光の正体は『記憶』。

 その記憶の正体は『アイシュリングの記憶』だった。

 光となった記憶の出所に葛葉は向かい始めた。

 立つことすらできなかったはずが、今では歩くことさえできる。

 何が待っているのか、葛葉は歩みを止めることなく進み続けた。光の発生源、記憶の始まり。


『あなた……クロエをお願い』


 悲しい記憶のはずがない、嬉しい記憶でもない。

 暖かい、優しい記憶のはずだ。

 暖色の光なのだから。


「―――君も、緋月君と同じなようだね。諦めが悪い……」


 ふと記憶を追う葛葉の背に声が掛けられた。

 それは久しく聞く、アイシュリングの声だった。


「……どうして、悪魔と契約したんですか?」

「っ。……驚いた、聞きたいことが山ほどあるだろうに、最初にそれがでてくるとはね。まず出てくる質問は、ここは何処……だと思ったのだが」

「そんな分かりきってることを聞く必要はないですよ。ここはあなたの閉ざされた記憶の回廊……ですよね」

「あぁ、正解だ」


 葛葉はアイシュリングと久しぶりの会話をするとともに、この場所がなんなのかの確信をしていた。

 記憶はアイシュリングのだ。流れていく記憶を見て分かった。


「他にもあるはずです! どうして、真っ暗なんですか!」

「……すまないが私は疲れたんだ」

「は? そんな、そんな理由でクロエを見放すなんてっ‼︎」


 乱暴に腕を振り、乱暴な口調でアイシュリングに詰め寄った。黙って葛葉の目を見るアイシュリングの顔を数秒見つめ、ハッと葛葉は一歩後ろへ下がった。

 頭に血が昇ってしまい、ついムキになってしまったと顔を背けた。


「あの顔が、彼女を連想させるんだ。……情けないことに、私は娘の顔を直視できないんだ」


 自分を嘲笑うかのように笑みを浮かべ腕を脱力させた。


「……情けないですよ、本当に。クロエが可哀想じゃないですか……」

「悪いことをしているという自覚はある、だが無理なんだ。彼女への未練を捨てきれない……‼︎」


 愛する者、大切な者を失った者の気持ちは葛葉にも理解はできる。だがそれを理由にして、残った大切な者を手放そうと考える者の気持ちは理解できない。


「だからって……」


 葛葉はどう説得をしようか必死に頭の中で言葉を選んだ。どんな言葉を、どんなふうに掛ければ、アイシュリングは目を覚ますのか。


「……」

「……逢瀬の時まで後少しだ、私は行くよ」

「っ、待って! 待って下さい‼︎」


 葛葉に背を向け歩き始めたアイシュリングに届く事のない手を突き出すが、止まらないアイシュリングを見て、ゆっくりとその手は降りてしまった。

 あまりにも無力だった。戦いならば少しでも役には立ったろうが、こと誰かの心を救うことに関しては、葛葉は圧倒的に無力だ。

 自分の心さえ救えなかった人間なのだから。


(それでも、仕方ないで済ますわけには行かないっ‼︎)


 葛葉がそう意気込み、一歩力強く足を踏み出した時だった。葛葉の胸が光だした。

 驚きその光に指先で触れると、その光はとても暖かかった。


「……っ」


 その光は球となってアイシュリングの下に向かい始めた。そしてアイシュリングの目の前に出ていくと、ピカッと光を放った。

 葛葉もアイシュリングもその光に目を焼かれてしまうのだった。


『―――あなた』

「―――っ」


 二人の耳に届く鈴音のような優しい声。

 一番驚いているのは勿論、アイシュリングだった。


「……あぁ、そんな、やっと……会えた」


 目の前の最愛の人を見て、ブワッと目から涙が溢れ頬を伝い暗闇に雫が落ちていく。

 雫が暗闇に落ちた瞬間、辺りの景色が一変した。

 暗闇が晴れ辺り、葛葉の立つ緑豊かな平地を隔て清らかな川が流れ、その向こうには多種多様な花々が咲いていた。


『もう……私に甘えてくるのは相変わらずね』

「当然だ……! 当然だろう……‼︎」

『はいはい。……ほら、人が見てるわよ』


 ふと、葛葉の目とソフィアの目が合った。

 緊張している葛葉を見てか、ソフィアは優しい眼差しと微笑みを浮かべながら小さく手を振った。

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