三十四話 愛し子を見つけて
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―――眼下に広がる光景を眺めていた緋月が顔を上げ、後ろに振り返ると、そこには遥か遠くへ吹っ飛ばしたはずの悪魔がいた。
「……っ。かなりボロボロだけど、大丈夫そ?」
「足りぬ。魂が……足りぬッ‼︎」
緋月が下唇を噛み締めつつ、今まで通りの口調、態度で挑発すると悪魔が叫んだのだ。
そして下に向いていた掌を上へ向けた。次の瞬間には、そらに幾つもの光る球体があった。
「不味いっ‼︎」
緋月が冷や汗を流し目を見張った。
そしてダッと疾走し悪魔の胴に未だ刺さっていた大剣を引き抜こうとするが抜けなかった。
そのことに衝撃を受けている緋月に、悪魔は睨み付け無慈悲に合成魔法を放った。
その威力たるや絶大。緋月の身体は猛る黒炎に蝕まれ、黒雷が緋月の身体に電紋を刻んだ。
緋月の身体は一瞬にして焦げカスとなってしまった。
「足りん……」
力を欲する悪魔は焦げカスとなった緋月の肉体から、宙に浮いている光球と同様のものを抜き取ろうとしたが、何も起きなかった。
悪魔の求めるもの、それは魂だった。
悪魔―――『魂喰らう虚魂の悪魔【ケルベット】』。
そして魂に飢える悪魔は、目の前の抜くことが出来ない緋月の魂に驚愕していた。
その時だった、緋月の身体に淡い光が現れて全身を包み込んだ。次の瞬間、ケルベットの視界がズレた。
「……ぁ?」
ズレた頭部を両手で押さえつけ再生する。ズレていた視界もちゃんと元通りとなった。
「―――いやぁ〜危ない危ない。いやはや、ボクじゃなかったら死んでるよ?」
黒焦げの肉塊となったはずの緋月の肉体は、綺麗な肉体へと変わっていて、肌艶も良くなっていた。
「で、虚魂の悪魔……君? さん? ま、いいや。……フッ、覚悟しな。ボクを一回殺しちゃったんだ、地獄を見るよ?」
ニヒッと不敵に笑いドヤ顔を浮かべて、ケルベットの視界から姿を消した。
すると再びケルベットの視界がズレたのだ。だがすぐに身体を再生し、身体を繋ぎ止める。
振り返り手を翳そうと突き出すが、突き出した途端にボロボロとケルベットの腕は崩れてしまったのだ。
ケルベットの懐にいつの間にか潜り込んだ緋月は、ケルベットの身体を思いっきり蹴り付けた。
「ッ‼︎」
ドンッという音と共にケルベットの身体は吹っ飛んでいき、屋根の上を数メートル転がって止まった。
緋月の圧倒的な強さにケルベットは決意した。
「なっ!」
宙に浮いていた大量の光球が全てケルベットに吸収されてしまった。
その数、おおよそ250ほど。
魂を喰らい能力が強化される人物は緋月も知っている。その者はレベルアップにも等しい能力の強化がなされていた。
「……悪魔は、どうなのかな?」
光球を取り込んだケルベットの身体は震え始めた。叫び声を上げ内から外に出ようとする魂によって、身体の内側から食い破られるような激痛が走っているのだ。
叫び声は途端に太く醜悪な声に変わっていった。
「……あぁこりゃ不味い」
グンッグンッとケルベットもといアイシュリングの身体は変身していった。
両腕が大木かのような太さに鋭く長い爪、背中からドラゴンと見紛うほどの大きい両翼が、脚も大木同様の太さで怪獣のようなゴツゴツとして、the悪魔こような強面の顔に大きな角を持つ、悍ましいものへと変わってしまった。
『グァァァァァァァァァァアッ‼︎』
大地を揺らし大気を震わせる咆哮が打ち上がった。
ヒリヒリと緋月は肌が痛むのを感じた。
「強い……」
外見からも、溢れ出す魔力からもそれは伝わってくる。
「厄介だなぁこれは」
五階建てのマンション程はありそうな巨躯が緋月に向かって走り出した。
ズシンズシンと屋敷を潰しながら地を鳴らす。
緋月は身構えた。そしてジッと見ていたために、ケルベットの予備動作を見てから、その掬い上げの斬撃攻撃を避けた。
屋敷の大半の屋根が吹き飛ばされ中身が丸見えとなった。それを見ていた緋月が一つの部屋に目をやって、目を大きくかっぴらいた。
なぜならば、そこには愛しの、
「葛っちゃん⁉︎」
愛しの葛葉がいたからだった。
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