三十二話 A real hero
迫り来る拳を避けるため、顔を少し右に動かすと葛葉の頬にスッと一筋の切り傷ができツーっと血が滴る。
そして迫る他の追撃を受け流し反撃するも、鋼鉄のような武装兵の身体には傷一つどころか、効果すらなかった。
(やばい……息が、……っ、疲れてきた……)
武装兵の大振りな攻撃に、葛葉も同じく大きく避けるため体力の限界が差し掛かってきていたのだ。
だが武装兵の攻撃の手は止まない。どころか、さらに激しく激化するのだった。
「―――⁉︎」
突如ふらつく足。足が縺れたことで葛葉は武装兵の攻撃を避けることができなくなった。
そしてそのまま葛葉は重い一撃を喰らった。
「っあ―――ッ‼︎」
腹部が貫かれたのかと思うほどの衝撃の後、当然葛葉の身体は吹っ飛び、部屋の壁へと激突した。
直撃。それは普通なら二度と起き上がれないような、重く鈍い攻撃だ。
「……でもっ」
葛葉は違う。
十分、長いこと近づいていた。だから、
「お粗末だったみたいですね……コレ」
盗ることなど造作もないのだ。
ハッとそれを見た武装兵が自分の懐へ手を入れた。当然無い。
スキルキャンセラーは、今や葛葉の手中なのだから。
葛葉はスキルキャンセラーを掴んだまま、それを片手に持っていたナイフで破壊した。
スキルキャンセラーはあっさりと壊れ、ナイフは葛葉の手を貫通するのだった。
「こっから……こっからだ……ッ‼︎」
ボコボコにされていた葛葉の逆転劇が今始まる。
まず最初にする事は勿論全身の痛々しい傷の全快である。
葛葉が立ち上がる最中にフッと消える傷に驚き、武装兵は目をまん丸にした。
あの大量の傷が一瞬で無くなったのだ。
「―――ぅ⁉︎」
そして次の瞬間葛葉は部屋を縦横無尽に飛び回り、一瞬にして武装兵の背後に回り込んだのだ。
それに気が付いた武装兵が振り返ると同時に、葛葉の握り拳が武装兵の顔面に炸裂した。
ゴーグルもマスクも全て粉々にし、顔面に直撃するその一撃。武装兵の頭部の装備は粉々に粉砕された。
「……っ。……結構、好青年……」
頭部の装備が破壊されて露わになったのは武装兵の素顔だ。葛葉の目にはその顔はなかなかの好青年に映った。
といっても今の葛葉よりは歳上だろう。
「っ。参ったな、素顔を見られちゃ不味いってのによ」
「……名前は?」
「リアム・ウェールズだ」
「私の名前は知ってるんだっけ……?」
「ああ。英雄、鬼代葛葉だろ」
私も有名になったな〜、と胸中でしみじみ思う葛葉にリアムは銃を向け語りだした。
「俺は昔っからヒーローに憧れてたんだ。だから、頼むぜ鬼代葛葉……俺をガッカリさせないでくれ」
その宣言の後、葛葉の動きを真似るかのようにリアムは部屋を縦横無尽に飛び回った。
そしてカランビットナイフで葛葉の首を狙うが、葛葉はその手をいなし、リアムがよろめいた隙を突き腹部に膝蹴りをかました。
リアムの身体は天井まで飛び上がるのだった。
「っと!」
天井に勢いよくぶつかったリアムの身体は重力に従い、床に落ちるがその寸前、葛葉の蹴りが炸裂した。
リアムの身体は次は壁に吹っ飛んでいき強く背中を強打した。
「がっ……ぅあ、カハッ……!」
全身から悲鳴が上がるが、リアムは痛みによろめきながら立ち上がった。
銃を抜き弾丸を三発を葛葉に向けて発射するが、葛葉はそれらを避けて、何でもないかのように澄ました顔を湛えるのだった。
「容赦ねぇな……」
「ガッカリはされたくないから」
「そうか、ありがとよ」
葛葉の言葉に苦笑しリアムは体勢を立て直した。
葛葉へ駆け出し床に落ちてしまった銃を手に取り、葛葉をスライディングで横切りすぐさま立ち上がっては、葛葉の後頭部に銃口を突きつけた。
「チェックだ」
「……そういうので今までチェックになったことってある」
唐突なそんな発言に「は?」と聞き返す寸前、葛葉が肘を後ろに突き出したことでリアムの腹部にめり込んだ。
そして足を引っ掛けて転ばせる。
またしても地面に倒れたリアムは、「またかよ‼︎」と嘆くと同時、葛葉がリアムの顔面を踏みつけようとしているのを見て、身体を回転させリアムは間一髪避けるのだった。
「……はぁ……はぁ、殺す気か?」
「もちろん」
「ふっ、のわりには随分と可愛らしいパンツ履いてんじゃねぇか」
「……これは」
葛葉はパンツを見られたことに少し眉を顰めて弁解しようとするが、リアムの攻撃がやってくるほうが早かった。
一気に距離を詰められ中の引き金を引かれるが弾は当たらず。拳も全ていなすが、葛葉の攻撃もリアムにいなされる。
「ッ‼︎」
「っ」
リアムは銃のグリップの底で葛葉に打撃しようとするが、葛葉によるダメージ覚悟の腕でのガードで防がれてしまうのだった。
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