三十一話 最強の最悪
剣戟の音は剣同士が当たる甲高い音によって途切れた。剣が大きく弾いたことで身体が大きくのけ反った。
だが大剣を自由自在に操り、大剣を片手で構えた。
「ねぇ。ボクさ、本気出していい?」
「……本気、だと?」
緋月の飽きたかのような声音と、本気という言葉に悪魔は冷や汗を流した。
「そ、本気。一瞬で終わらせてやるよ」
「……」
大剣を肩に担ぎながら手を突き出して、クイクイッと手で挑発をしてく流のを見て、悪魔はグググと拳を握った。
「何度も言うが調子に乗るなァ‼︎」
手のひらに合成魔法を展開させ、頭上に両手を掲げた。両手から出された合成魔法が、悪魔の頭上で大きく膨れ上がる。
緋月のムカつく態度にイラついた悪魔は顔を殺気に満ちた顔で、緋月へ向かってその合成魔法の塊をぶっ放した。
「本気出すって言ったよね」
緋月は鋭い眼光で悪魔を見た。その瞬間、合成魔法が炸裂した。
大地を削り、空気を歪めるほどの合成魔法でも、
「―――倒せんか!」
緋月は倒せないどころか、緋月の脚を止めることも出来ない。
爆発を避けるためか大きく遠くに退避した緋月が走ってくる。グングンとスピードを出し、みるみる内に間の距離は無くなっていった。
そして瞬きを一度した時にはもう既に、目の前に緋月の顔があった。
「っ⁉︎」
咄嗟に防御を繰り出すが緋月の回し蹴りの威力は規格外。悪魔は地面に叩きつけられるのだった。
「―――っ‼︎」
だったが、すかさず手のひらを緋月へ向け魔法を放つ。不意打ちを狙った悪魔だが、緋月への攻撃は簡単にいなされる。
「どっせいっ‼︎」
脚を大きく上げそのまま踵を悪魔へと落とした。
巨大な隕石が降ってきたのかと錯覚するような衝撃が悪魔にやってくる。
意識が飛びそうになるが悪魔はそれどうにか繋ぎ止める。
「せいっ!」
地面に倒れていた悪魔を持ち上げ、緋月は遥か彼方へと吹っ飛ばす。みるみる内に悪魔の姿はミジンコよりも小さくなってしまった。
が、緋月は自分の大剣を持ち変えて、思いっきり大剣を投げた。
「ボクの本気……舐めすぎ」
聞こえるはずのない緋月の言葉は虚へと消えていった。
すると自然とこの空間が解け始めたのだ。
荒廃した砂漠の荒野のちっぽけな丘の上の、小さな小さな王国は滅びの時を迎えた。
展開されていた魔法陣が閉じ始められる。
膨大な魔力が大気に戻っていく。
「……っ。まだ終わってないか」
ゾワっとやってくる感覚に緋月は身構えた。
半分解け消えた魔法の外には、煙が立ち昇る屋敷の姿が、
「さて、どうくるか……な……。―――まさかっ⁉︎」
悪魔の狙いを察した緋月は背後に広がる光景に振り返るのだった―――。
―――ドンッと大地が断割しクレーターが出来上がる。
さらに大きな撤回が振り回されて全てが軒並み倒されていった。
物も人も何もかも。石の破片を散らしながら、内臓を散らしながら。
「ふぅ、いいのぉ……ッ‼︎」
大きく肥大化した角に、人の形を保つことがやっとな手。
人間の鮮血を浴びに浴びた鬼丸の鬼化は後一歩で暴発の域に達していた。
「くふははは……あー……? ―――キヒッ‼︎」
鬼というより悪魔な鬼丸が次々と人間―――襲撃者達を殺戮していく。
地面には高く積み上がるほどの死体が。
「―――うそうそっ。マジっ、これぇ!」
それを屋敷の屋根の上で見下ろせる緋月は悲鳴にも似た声を上げた。
どう見てもやりすぎな光景にドン引きし、片足を一歩後退させる。
「っ、このままじゃ」
緋月の予想が当たってしまえば、これこれから、何がか収集が付かなくなることが起きようとしているのだ。
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