二十九話 神速の一刀
(―――ッ、クソッ‼︎ やられた!)
脚を射抜かれた男は木の陰に隠れて脚を抑えながらここの中で悪態を吐いた。
脚の激痛に声を上げそうだったがどうにか我慢した男は、自身の銃を手で引き寄せ自分の元へ持ってくる。
両者ともに一撃貰ってしまい、律は応急措置をしなくては出血死してしまうが、男は脚を撃ち抜かれただけなので動くことは出来ないが死ぬことはない。
そしてスナイパーの決着は、二人のうち一人が確実に死ぬまで続く。長いこと。
それがスナイパーという者の宿命であるのだ。
「待つもよし……だが、一発貰っておいてそりゃねぇだろ」
異世界人であろう相手のスナイパーが当てて来たのだ、故に長年スナイパーとして生きて来て軍で培ってきた実力というプライドが、相手を殺すことを望んでいた。
絶対にという揺るがない信念で。
「ふっ、やってやんよ」
ニヤリと笑い男仰向けになるとゴロンと横に身体を回転させて木の陰から身を出した。
二回、回転してライフルを構えた。
そして相手が撃つよりも早く引き金を引くが、射出された弾丸は空中にて相手の弾丸と打つかり合い、互いに弾き合ってしまった。
銃声とカキン! という金属音が鳴り響いた。
再び両者共に引き金を引き、屋敷と林の両方から銃声が轟く。それが何分も続くのだった。
銃声が止み、銃弾の応酬はどちらかの勝利にもならなかった。二人の弾は当たらず、もはやスナイパー同士の戦いではなくなっていた。
塹壕戦をする兵士の如く、ただ撃ち合っていただけだ。
「……チッ、FPSゲームやってる気分だっ」
顔を出した相手にスナイプし、自分は直ぐに顔を引っ込める。まさにゲームのような戦いだった。
「残り4発か」
最後のマガジンに最後の四発。
この四発で男は決めないといけないのだ。
「ここが元の世界なりゃ、一発でいいのによぉ」
全てが異常なこの世界でスナイパー同士の戦いは成立しないと、今戦って痛感した。
一般人でも相当な身体能力を有していて、動物とは全く違う怪物が跋扈するこの世界。
「生きにくいったらありゃしねぇ」
愚痴をこぼし、確認のために取り出したマガジンを装填し直し、銃を構えた。
「―――ぁ? っ、居ねぇッ‼︎」
銃を構えた先ほどまで撃っていた場所を見た時、そこにあの少女の姿が無かったのだ。
動揺して引き金から手が離れてしまう。
どこに行ったのか、男が屋敷の窓を左端から全て目を通していたその時、顔の横を何かが通っていったのだ。
「っ。いや、居たな……」
何か、弾が飛んできた方向に顔を向けると、SVDを下ろし地面に置くメイドが居た。先ほどから戦っていた相手である。
「……とち狂ったか?」
正面からゆっくりと歩いてやってくる少女を訝しげに思いつつ、銃口を少女の眉間に合わせた。
「だが、手間が省けていい」
そして引き金を引いた。
弾丸が飛び出しその次にマズルフラッシュが薄暗いこの場を照らした。弾丸は真っ直ぐ飛んでいき少女の眉間に風穴が空くと男は確信していた。
だが風穴が空くことはなかった。
「……は?」
その代わりに後ろの屋敷の窓の硝子が割れるたのだ。
(何が起きた……?)
衝撃よりも困惑が勝つ中、男は銃を構え直し再び引き金を引いたが、またしても少女は無傷だった。
「まさか……」
少女が手を置いているそれを見て男は冷や汗を流した。そんなバカな話があるか、と男は引き金を引いた。
だが、同じく少女は無傷。
その時だった、少女が走り出したのだ。距離は五十メートルもないほどで、逃げたとしても銃を装備している限り追い付かれる。
だから、殺すしか方法はないのだ。
「っ、あってたまるかそんなこと‼︎」
男はそう叫びながら引き金を引いた。五十メートルもないほどの距離のスナイパーライフルの弾が、斬られるわけが無いのだ。
だがハッキリと見えた。
鞘から姿を現す漆黒の刀身が陽光を反射させながら、迫り来る弾丸を斜めに一閃したのだ。
「……っ!」
その光景に唖然とするが、少女が迫り来ていることを思い出し、すぐさま拳銃を抜き引き金を引いた。
装填されている弾丸全てを少女へ。
だが少女はそれら全ての弾丸を刀で斬り落としたのだ。刀身は見えない、速すぎるからだ。
神速の一刀の前に弾丸は止まっているのか、悉くが真っ二つに斬られてしまった。
(こんなのバグだろが‼︎)
そしてあっという間に目と鼻の先まで距離を詰められ、刀が首に迫った時だった。
ガクッと少女が地面に膝を突いたのだ。
血を吐き地面に膝から崩れ落ちた少女。男は間一髪のところ、助かったのだった―――。
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