一話 長の集い
二部の始まり始まり〜。
『ねぇ、寂しく無いの?』
誰かがそう言った。寂しい? そんな筈あるか、わしは鬼の王なのじゃ。鬼の王が寂しいなどと思う訳なかろう。
それに、こういう時、いつも手を差し伸べてくれた者が居た。だから、寂しくは無い。
「以上をもって、今回の騒動の全てとなります」
王都円卓会議場にて、様々なギルド長達が席に着き、今回の騒動――始まりの街、オリアでの魔王軍幹部出現と鬼族の里の壊滅――が議題として話されていた。
詳細な確認と、現場検証等の作業は、今も行われている。ギルド職員と冒険者がやってくれているだろう。
「……そうか。ひとまずご苦労だったな」
全ギルド長を束ねる、冒険者組合会長アストラス。この場で誰よりも決定力があり、今後の冒険者の活動が、彼の一言によって決まる。
「……質問いいですかね?」
「ん? うむ、構わない」
緋月から見て斜め左に座っていた、美丈夫はアストラスに一言言い、緋月へ向き直る。
美丈夫――エルリア・アストレアは、亞人領ギルド支部の長だ。
緋月は、うへ〜と面倒臭い相手に目をつけられたーと内心愚痴をこぼしまくっていた。
「魔王軍幹部がどうやって、王都領の外れに位置する最も安全な地に出現したのか。それにその時、あなたは何をしていたのですか?」
その問い掛けに緋月は深くため息を吐き、非常に嫌な顔をして答える。
「出現した魔王軍幹部はリリアルだ。アイツの能力は知っているだろう?」
「瞬間移動ですか」
「多分ね。それに、アイツは昔色んなところを旅してるらしいから、テレポート出来るんじゃない?」
「なるほど……では、あなたは何をしていらっしゃったのですか?」
……何故か緋月は弁明してる気分になってきた。むしゃくしゃしてきた、と顔を顰めっ面にしまたため息を吐く。
終いには会議室の椅子で遊び出す始末だ。
「ボクは事務仕事だよ」
「……本当ですか?」
エルリアは疑わしい者を見る目で呟き、緋月の後ろに控えている葉加瀬に真偽を確かめる。
「本当だよ。ま、仕事をやっていないが、仕事をしている人のを見ていたたけだけどね」
『……』
葉加瀬の発言を聞き、その場にいる全ギルド長が黙り込み、緋月は縮こまる。
そしてギルド長達が手元にある資料に視線を落とし、
「これを作成したのは……?」
「私だね」
案の定緋月は何もしていなかった。
「……疑っても仕方ないですね」
「おいっ! なんだその言い草!」
「ふふふ、ほんま相変わらずでありんすねー」
キセルを手に持ち、豪華な着物を身に纏う美女。美の体現者と言っても差し支えないこの美女は、極東支部のギルド長――紗和。
透き通るような金色の髪に、モフモフの尾と耳。どっからどう見ても獣人だ。
「君はこんなとこに居る暇あんのー?」
今極東は邪竜復活で忙しい筈。ギルド長なら尚更。
「暇は無いでありんすが……まぁ、副ギルド長に任せてありんすえ。問題ないでありんすね」
「う〜わ」
「緋月も言えた口じゃなーい」
部下に丸投げしている紗和に、引いてるような声を出す緋月に、だんまりだった葉加瀬が横から口を出す。
「と、とにかく! ボクが何してたか分かったでしょ!」
「……そうですね。何もしてなかったようですし」
「お? 喧嘩なら買うよ?」
とうとう緋月の堪忍袋の緒が切れそうになり、紗和やエルリア、葉加瀬は緋月をからかうのをやめる。
「……ふぅ、仲が良いのは大変よろしいが。あまり年寄りをハラハラさせんでくれないかな?」
「失礼しんした」
「御無礼を」
「ごめーん」
アストラスは咳払いをし、一度全ギルド長達の気を取り直させ、話を戻した――。
「ふぁ〜……」
朝日が差し込む一室。気持ちの良い朝を迎え、欠伸をしながら上体を起こし、背伸びをする葛葉。
カチャカチャと食器の音がする方を向けば、先日パーティーメンバーになった五十鈴が、コーヒーを淹れてくれていた。
「パーティーメンバーなのに、なんかメイドさんみたいだよ?」
「……そうですか? 母から恩は必ず返せと、そう言われてるので」
恩を与えたことはないが……。
葛葉は苦笑しながら起き上がる。と、ふと葛葉は窓の外に視線を向けた。
「どうかしました?」
「いや、なんか……やっぱなんでもない」
この時はまだ気付か無かった。助けを呼ぶ、心の声に……。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
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