二十七話 イヤーマフは必要、はっきりわかんだね
「ここで死ぬか、武装解除して逃げるか。どっちがいい?」
「……なんで俺には選択肢があるんだ?」
男は葛葉の恐ろしい目をゴーグル越しに見つめながら一つの疑問を訊いた。
「あなた達、武装してる人間は、してないでしょ? 死体を犯したり、傷付けたりは」
「……あぁしてない。俺らは非人道的な行為はしない、というより出来ないさ」
男のその言葉に葛葉は引っ掛かった。
「出来ない?」
「あぁ、なんせ俺らは軍事演習中にこの世界に来ちまったからな」
その答えを聞き葛葉は引き金から指を離してしまった。
その瞬間だった銃本体と腕を掴まれ、銃と手を引き離されてしまったのだ。そして腹部を蹴られ葛葉は少しだけだが吹っ飛んでしまった。
「ふぅ、油断大敵だぜ」
立ち上がった男が銃を構える葛葉に向けた。
ゲホッ、ケホッと咽せる葛葉は逃げることすら出来ない。そのまま男は銃の引き金を引いた。
「―――っ、マジか」
だが銃弾は葛葉の心臓を撃ち抜くでも無く当たるでも無く、銃弾は葛葉の掌で止まってしまった。
(左手を犠牲にしつつ、貫通した場合の保険として腕で顔をガードするとはな……)
考えてもしようとは思わないが、葛葉はやってのけた。
銃弾は葛葉の掌で勢いを失い、その掌をグチャグチャにするだけに終わってしまった。
「痛覚がないのか?」
「……スキルがあれば」
「はは。え、マジで?」
葛葉の予想外な発言に男は思わず驚いてしまった。
『情報屋』から聞いていた話では、【英雄】のスキルは『想像』と『創造』。どちらも強力なスキルと。
『想像』での身体強化と、『創造』での物質生成の相性が良く武器を持ち歩かない分、敏捷がクソ高いとの話だった。
だが予想外の連発。
男は改めて【英雄】という存在の異常さを知った。
(大元のアジトを壊滅させただけはあんな。痛覚もスキルがあれば無くなる……なるほど、あんな芸当が出来るわけだ)
どんなに特殊な訓練を積んだ兵士と言えども、痛みには耐えられない。と言っても程度に寄る。
骨折ならば脚をバタつかせるだろうし、腕切断ならば悲鳴を上げるだろう。
だが目の前の【英雄】は。
「っ‼︎」
掌を貫通という計り知れない痛みを味わいながらも立ち向かってくるのだ。
照準を合わせて引き金を引くが、素早い脚によって弾は当たらず急接近を許してしまう。
「づっ⁉︎」
急接近を許したとしてもまだ手はあった。はずだが、男の攻撃を葛葉は低姿勢になることで避けたのだ。
そして勢いをそのままに拳を固く握り締め、その拳を男の腹部へ思っきし放ったのだ。
「カハッ―――‼︎」
男の身体は2、3メートルは吹っ飛び、その拳の威力を物語る。
そして葛葉は床に落ちている銃を拾おうとして屈むと同時に、ブシッと腕を銃弾が撃ち抜いて行ったのだ。
「⁉︎」
男を吹っ飛ばした方へ向くと、男はぐったりとしつつも銃を構えていて。
銃口からは硝煙が立ち上っていた。
男の構えている銃は銃口を葛葉の頭と同じ高さに合わされる。咄嗟に葛葉は体を動かした。
名残惜しそうに掴めなかったグロックに手を伸ばし続けるが、急いで遮蔽物に身を隠した。
両者共に中々にダメージを負っている。
次の接近戦で勝敗が決まるだろう。
「でも、私が攻めるにはリスキー過ぎる……!」
はぁ、はぁと洗い呼吸をしつつも、今までの戦いの癖が抜け切って居ない葛葉だがしっかりと自分を客観視出来ていた。
先ほどの防御もいつものように防御したためだ。
「下手したら死んじゃう……!」
スキルがあったとしても脳天に一発喰らえばお陀仏となる。今はそんなつよつよスキルはない。
「残機は一個。……これでフェアなんだよね」
今までの葛葉はほぼズルをしていたのと同義である。
ここから真面目にやらなくてはいけない。
覚悟を決め、葛葉はナイフを抜いた。
「よしっ」
そしてバッと素早く遮蔽物から身を乗り出すように飛び出した。
パンっと音が鳴り頭の横を通り過ぎるが怯まずに葛葉は走り続ける。
目の前には銃を構える男。突き付けられる銃口と目線から、撃ってきそうな場所を勘で割り出す。
そしたら身体全体を動かしてそれを避けるだけだ。
今回の場合は男の距離もそこそこあるため、葛葉はスライディングを選択した。
スライディングし男の足元までくると、男の脚を自分の脚で横に払い倒す。
ドタッと男が受け身も取れずに倒れるが、男はすぐに体勢を立て直した。
「っ!」
膝立ちになり、立ち上がっている葛葉に銃を再度突き付ける。が葛葉はその銃を掴み銃口を上へ向けた。
パンっと引き金が引かれるが、銃弾は天井へ飛んでいく。
男が銃口を葛葉に向け直そうと力を込めるが、葛葉も力を込めそれを阻止する。
二人が取っ組み合いとなり、パンっと銃弾が暴発する。取っ組み合いの結果、男の手にあった銃は床に落ちてしまう。
拾う時間はない、葛葉がナイフで斬り掛かろうとすると男は二丁目のサイドアームを取り出そうとしていた。
「―――っ‼︎」
咄嗟に葛葉もサイドアームを取り出す。その銀色にコーティングされた大型自動拳銃は、拳銃というにはデカ過ぎた。
その拳銃を男の耳元で引き金を引いた。
弾は男には当たらないが、その音は男の鼓膜を破りには十分だった。
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