二十二話 殴って殴り続ければ
「さぁて決めに掛かるとしようかのう」
悪魔のような顔で、すでにボッコボコのボコな巨漢に笑い掛けた。
(じゃが……奴の能力が分からん)
戦い続けて分かっていることは硬い、ただそれだけだった。
(わしの全力の殴りが凹む程度とはのう……)
どんなに硬かろうが鬼丸の殴りならば戦車すらペシャンコにし、鋼鉄1000mm―――つまり100センチの鋼鉄の壁を突き破るのだ。
それが凹む程度、それはあってはならないことであるのだ。
「ふむ、じゃがこの世は常に理不尽、不条理極まりない。文句を垂れても意味がないからのう、愚痴なら墓場で言えば良い。……のう? そう思わんかえ?」
瞬間、鬼丸は男との距離を殺した。
ノーモーションからの殴り。それは普通なら何のダメージにもならない弱い打撃になるが、鬼丸は違う。
ドッッッッッ‼︎ そんな音なのかなんなのかハッキリとしない音が轟いた。
「衝撃無効や吸収でないならば、うぬのそれはわしにとっては意味があらぬよ」
男の鋼鉄の腕がひしゃげる。
鋼鉄の強度を持ってしても鬼丸の打撃には敵わない。
だが男のひしゃげたはずの腕はグニャッと元に戻っていく。
動きだけを見れば気持ちわかる不快感を感じてしまうが鬼丸はある事に気が付いた。
「なるほど!」
手のひらを拳で叩き納得と得心がいったのだ。
ならば、とそう呟きを溢し、またしてもノーモーションでの攻撃を消し掛けた。
男が鬼丸が殴ってくるであろう箇所を予想し硬化させた、何十にも幾重にも。そして予想は当たり、男は最小のダメージに抑え込め……なかった。
「―――ッッッッ⁉︎」
声にならない叫び声を上げ男は気絶しそうになってしまった。
鬼丸は二箇所、男の身体に攻撃を消し掛けていたのだ。拳は男の予想通りの場所だったが、蹴りは男の意識外―――脛に入れられていた。
「珍妙なスキルじゃなぁ。身体の任意の場所にその鋼を生成させると言った能力じゃろう? はて、全身に纏わせる場合はその厚さはどれくらいかのう?」
男のスキルを看破した鬼丸はジリジリと男へ詰め寄る。今にも泡吹いてぶっ倒れそうな男は、退くことすらも出来なかった。
「歯、食い縛るがよい」
また、鬼丸の姿が消え―――。
「ッ⁉︎ ―――カハッ‼︎」
そんな思考さえも追いつかないほどの速度で男の身体は空高く打ち上げられてしまった。
見る見るうちに遠くなっていく地面、そして男の身体はもう全ての雲の上までやってきていた。
「た〜まや〜じゃな。せいっ!」
打ち上がっていく男の身体を見上げながら呑気にそう言うと、鬼丸は地面を精一杯踏み込んだ。
そして溜めていた力を一気に解放した、瞬間、地面に大規模なクレーターが出来上がった。毎度のことだが。
「ほいっ!」
たったほんの少しの溜めで男と同じほどの高度へと跳躍したのだ。そして身体を宙返りさせその勢いのまま、男の身体へ踵落としをお見舞いしたのだ。
男はちょっとした隕石となった。
「燃えぬのだから死にはせんじゃろ、衝撃で内臓がひっくり返るかもしれんがの」
そうして、鬼丸のただただ一方的な戦いは終わるのだった。
「この後はどうするかの〜」
鬼丸は落下しながら他にするべき事がないかと頭を使うのだった。
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