二十一話 異世界のスナイパー……つまり異次元のスナイパー?
―――静寂が支配する森の中、木の横でギリースーツを着用し隠密する男は、屋根に飛び出た少女に狙いを定めていた。
(デルタがやられちまった、援護遅くなって悪りぃな。……仇はとってやら)
スコープのレンズ越しに見ていた光景から推測し、仲間の死を確定する男。
やや早計な男だが、スナイパーとしての腕前は超一流である。
「っ、あいつ、異世界人じゃねぇのかよっ」
隠密が命のスナイパーは声はもちろん吐息の音すらも漏らさない、だが男は屋根の上の少女が魔法で取り出した者に驚き声を上げてしまったのだ。
(セミオート狙撃銃、ソ連の武器か……。SVD、コイツはまた厄介な)
男は少女の持つ武器と自身の武器を脳内で比べて、心の中で舌打ちした。
(有効射程はこちらがまだ勝ってるが……相手はセミオートだ。下手に移動したら十発の弾丸が休みなく来るぞ)
男の武器はAWM―――L96A1。世界最強と謳われるスナイパーライフルである。
SVDの有効射程は800以上か以下。対してAWMの有効射程は800から1500mほど。射程に関してはこちらが有利。
だが男の言葉通り、SVDはセミオート狙撃銃であり装弾数は10発。相手が腕のいいスナイパーならば命は無い。
(ここからあそこは大体……700か。余裕で届くな。風向き、風速ともに良好。絶好の狙撃日和だな)
それは男にとってもあの少女にとっても同じだった。
一方、その頃律は。
(うぅ〜私に出来るのでしょうか……⁉︎)
SVDを抱きながら扱ったことのない未知の武器に不安を抱えていた。
葛葉から渡されたSVD。もしもの時のご信用だ、と言われ他にも何個か『銃』と言われるものを受け取ったが、問題は扱えるかどうかである。
葛葉や他の人々が使っているのは見ているが、自分で使えるのかどうかは別だ。
(く、葛葉さんは平気平気と言ってましたけど……)
なんの根拠があってなのか、律にはさっぱり分からなかった。
だが覚悟を決め、律はすぅ〜っと息を吸い、はぁ〜と深く吐いて気持ちを楽にした。
「やりますっ!」
葛葉からの信頼を裏切りたくないから、律は銃を構えた。
そして思い起こされるのは葛葉から受けったら時のこと。
『―――律、はいこれ』
『え、な、なんですか? これ……』
『銃。狙撃銃だよ。それと、これとこれも』
『あ、あの……葛葉さん……?』
『律の身が危なくなった時に使って。多分、律なら平気だと思う。ただね』
『ただ……?』
『それは人の命を簡単に奪うことができて、奪ったことを実感出来ない武器だよ。刀や剣、弓と魔法。ああいうのとは全く違う。簡単に人の命が奪える』
『……っ』
『だから扱いには十分に注意して貰いたい。私は律を信じてるから』
『っ‼︎ はい! その信頼に応えられるよう、注意して扱いますね!』
『うん、お願いね。……あぁ、あと、この言葉を覚えておいて、私の尊敬する名言―――』
片膝を付け、銃床を肩にピタッとくっ付ける。そして銃に身を隠すように縮こまり全身に力を入れ、スコープを覗き込み、先ほど撃たれた角度や音と弾丸が着弾した誤差から距離を割り出す。
そして見つけ出す。
「撃っていいのは」
引き金に指を掛け、外のスナイパーよりも早く、
「撃たれる覚悟のある奴だけだ……です!」
狙撃した。
弾丸は真っ直ぐと飛んでいく。
そしてその弾丸は木の幹の隣で伏せて構えていた男のスナイパーライフルのスコープを射抜いた。
「よしっ……!」
律は初狙撃を見事成功させたのだった。
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