二十話 遠くの敵
「―――律様!」
武装兵の攻撃を受け止めた五十鈴が、自身の後方から刀を構えつつ飛び上がる律に声をかけた。
相手の武器と自身の武器が打つかり合い反動で仰け反っている五十鈴は、律に全幅の信頼を置く。
「ご覚悟を! 【我流抜刀―――隼風一閃ッ‼︎】」
五十鈴からの信頼を受け止め、律は催眠・幻覚の魔法ではどうすることもできない速度で決めに掛かった。
空中で静止していた律は風を置き去りにして武装兵を通り過ぎていった。
すぐには何も起こらない。
斬撃は時間を置いてから、斬り裂いた。
「―――ッ‼︎」
武装兵の武装が破壊されて姿が顕になった。
それは見目麗しい美女だった。
「……女性の方でしたか!」
刀を鞘に納め斬った相手を見て律は少し驚いた。
かなりの武装だったからか、女性という印象はしなかったのだ。
「五十鈴さん! 捕縛しておきますね!」
「……はい。お任せします」
接近戦を担当していた五十鈴は腹部を抑えながら、律に後を任せるのだった。
二人が戦いが終わったことで気を抜き、ゆっくりと体を休める。
律が女性の武装などを丁寧に側に置いている時だった、目を瞑っていた五十鈴が微々たる殺気に気が付いた。
「律様っ!」
その殺気は律に向けられていた。
傍に置いていた盾を手に取ることすら惜しいまでの時間のなさ、五十鈴は盾を諦め、律へと駆けよった。
名を呼ばれたことに律が顔を振り向いた時だった、屋敷の窓が割れた。鬼族の人間離れした元の身体能力で、五十鈴は何かが飛んできている事に気が付いた。
五十鈴はそのまま律の身体に体当たりをかました。
「ッ!」
「……あたっ⁉︎」
五十鈴に体当たりされた律はそのまま尻餅を付いた。
何が、と瞬きを繰り返して五十鈴のことを見ると、律は目を見張った。
「……っ、律様、ご無事ですか……!」
律の目に映ったのは、肩からドバドバと蛇口ハンドルが壊れた蛇口のように血が流れ出し、肩を力一杯に握りしめる五十鈴だった。
「五十鈴さん!」
「……外に、外に居ます……! まだ、敵が……」
「っ。わかりました! あとは私がやります! 五十鈴さん、ごめんなさい」
「いえ、私が気を抜いてしまった所為です。……私は傷が治り次第、メイドの方達の下に向かいます」
五十鈴は律の心配を受け止めつつ、律には非がないと声を掛け、この後の行動を伝えた。
なぜなら、外に居る敵は律にしか倒すことができないからだ。
「外の敵を、お願いします……!」
痛みを堪えつつ五十鈴は律に後をことを託すのだった。
五十鈴のその目に、その言葉に背中を押されたような気がした律は意気込んで元気よく、
「はい! 後は任せてください‼︎」
任されるのだった。
五十鈴に背を向け窓へ向かって走る。
刀を鞘から抜き窓との距離が縮まった瞬間、飛んでくる何かを避け窓ガラスを割った。
大きな音と共にガラスは砕け散り床に散乱する。それを踏み付けながら律は窓の枠を掴み、強靭的な握力で屋敷の屋上に飛び出すのだった。
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