十九話 罵詈雑言には罵詈雑言で
報告もなしに遅れてしまい、すみません!
「テメェは! 【英雄】じゃあねぇ! テメェは―――」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ‼︎ 死ぬ時くらい黙って死ねよ! だいたい何勝手に生まれて来てんだよ! この世界はテメェなんか必要としてねぇんだよクソ野郎‼︎」
男の罵詈雑言をある程度受け止めていた葛葉は、我慢の限界だとばかりに鬱憤を爆発させた。
「テメェなんか必要となんかされてねぇよ! 今までもこれからも! そんな奴がのうのうと生きて、他者の思いやりもなしに、人を遊び道具みたいに扱う人間が、人として扱われると思うなよ! 烏滸がましいんだよ、勝手に人の形して、勝手に文字を使って言葉を使って、それは人が使うものなんだよ‼︎」
男の幼稚な罵詈雑言とは比べ物にならない、ほぼ人権侵害の言葉の羅列。ここが日本であれば、録画・録音されてネットに流されれば、大炎上しただろう。
だがこの異世界ではもはや、人権すらちゃんとあるのかすら怪しい。魔物・魔獣が蔓延るこの世界で。
「私が英雄? 違う、今は……今はただの復讐者だ‼︎」
「……」
ほぼヒスってる葛葉に男は吐く言葉すら浮かばない。
それもそのはず、罵詈雑言を並べる前までは氷のような冷たい表情が、今では涙を流し頰を真っ赤にしていたからだ。
「あの子たちが何をした! ただ生きて、真っ当に生き続けようとしている若人だ‼︎」
葛葉の頭の中にあるのは、犯され、傷付けられ、恐怖すらも超えた悍ましい感情をぶつけられた、あの哀れで可哀想な少女たちだ。
「お前達のような世界から排斥されたゴミクズどもは一纏めに隅っこで小さくなってろよ! 邪魔なんだよ!」
これは当然の罵詈雑言でもあり、一部一部は自分への罵詈雑言でもある。
目の前で助けられず最悪の結果だけが残った現在は、葛葉に力がなかったから。
「お前らは、存在すら許されない。お前達の罪は生きている内では償えない、だけど死すら生温い。彼女らと平等な結末なんて、烏滸がましい。生まれて来たことを後悔するほどの苦痛を味わってもお前達の罪は濯ぎきれない!」
葛葉の言動とは裏腹に頭の中は酷く冴えていた。
こんな時、異世界アニメの主人公はどうするだろうか。ただ殺すだけだろうか、苦しませて殺すだろうか、同じことを味合わせて殺すだろうか。
でも、それはフィクションの中の話。人間が人間である限り、死は何よりも救いとなってしまう。
だからこの男には死すらも罰にはならない。
「だから苦しんで、せめて私の鬱憤が晴れるくらいには」
「……ふざけ―――!」
男が葛葉の舐めた態度と言葉に怒りをぶつけようとして、
「がふっ……!」
喉にナイフが突き刺さった。ドプドプと流れ始める血が男の喉を塞ぐ。自らの血で、呼吸が塞がれてしまうのだった。
「ぉ、ご、ざぶげな……!」
こんな死に方、と嘆こうにも言葉は血に塞がれる。
「阿鼻地獄の底の底に落ちようが、許されませんよ、あなたは」
死にゆく男を睥睨し、葛葉は呟いた。
ガクッと膝から崩れて落ちた男は天を仰いでいた。人生の終わりを感じるように。
そんな男を見て葛葉は近付いてき、男の喉に刺さったナイフの頭に狙いを定め足を上げた。
そして男の喉に刺さっているナイフを蹴り付けるのだった―――。
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