十七話 贖えることのない罪
「カハッ……」
口から血を吹き出し心臓を抑えながら男は天井を仰いだ。
「……はぁ、感謝する。殺してくれて」
「……どうしてですか」
仰向けの体勢で倒れる男を見下ろし、葛葉は男の言葉の真意を問いただした。
「罪悪感だ」
「勝手すぎますよ、死にたくなるほどの罪悪感を感じといて、こんなことを……黙認してたんですから」
「あぁ、同感だ。はっ……勝手だな……だか、ら、死を……もって」
罪を贖う、そう力なく答える男の顔を葛葉は睨みつけて、
「あなたのは贖える罪では無いですよ。……地獄の奥底で永劫の苦しみを味わっても足りませんよ」
「……ぁあ」
安心させる言葉では無い、死を悼む言葉でもない。
葛葉は心の奥底からの本音、したことの罪の重さを自覚させるよう、責め立てる言葉を死の間際の人間に放つのだった。
「死んで逃げられるんですから、いいですよねあなた達は」
力尽きた男を見下ろしながら葛葉は愚痴を吐くように口にするのだった。
―――その後、あの部屋を後にした葛葉は血眼になって殺しきれていないたった一人を探していた。
扉を蹴破り、扉を肩で体当たりしその部屋にいる荒くれ者達、武装兵達は皆殺しにし、たった一人を探す。
廊下で葛葉とすれ違えば、荒くれ者達は斬られたと察する前に生が終わっていく。
「……どこッ‼︎」
殺さなくてはならない―――否、殺すべき悪であるあの男。
「どこにッ‼︎」
走る速度が速くなる、逸る気持ちが抑えきれない葛葉は、もはや物に当たったとしても気にせずに走り続ける。
痣ができようが、骨に罅が入ろうが気にしない。というよりも気に出来ないのだ。
だが、葛葉は脚を躓いたことで正気に戻るのだった。
「……どこ」
ドンッと廊下の壁を力強く叩き、葛葉は気を落ち着かせたと思った時だった。
ジャラジャラと金属の音と金属を引き摺るような音がしたのだ。その声を聞いた瞬間、クルッと葛葉は顔をその音の方向に向けた。
「……っ」
ダッと床を蹴り葛葉は音の方向に向かって走り始めた。元から早かった足が、度重なるレベルアップによってオリンピック選手以上の速度で走れるようになり、流れる景色の中、葛葉は入り乱れている廊下を真っ直ぐと進み続けた。
そして葛葉が出口に差し掛かった時だった、あの男が鎖に繋がれたボロ雑巾のような人々を連れていた。
「おっと、こりゃ不味いな」
葛葉の姿を見た男が一雫の冷や汗を流した。
葛葉が言葉を一時時的に失うが、すぐに行動に移した。棒立ちに見ていた見ていた葛葉は一瞬にして姿を消した。
「おっ、ちょ‼︎ 待て待て待て待て待て待て待て待て‼︎‼︎」
姿を消した葛葉をキョロキョロ探し回っていた男が焦ったように待ったを掛けた。
男の不意を狙っていた葛葉はピタッと脚を止めてしまった。
「―――はい、残念」
「ッ‼︎」
立ち止まった瞬間、矢が飛んできた。
「ははは! 本当に止まる奴いんのか! バッカだなぁ!」
葛葉が驚愕の顔を浮かべていると、男はゲラゲラと大きく笑って葛葉をバカにした。
葛葉はスンッと真顔になったが、すぐに冷静を欠いた。
「おっ!」
バッと地面を蹴り、男に斬り掛かったその時だった。カチッと言う音と共に葛葉の地面が爆砕した。
葛葉の脚が吹き飛び血が地面を染めるが、すぐに葛葉の脚は綺麗な状態に戻った。
「チッ、怪物が‼︎」
そう男が悪態を吐くと同時に、男はポチッと懐から何かのスイッチを押し込んだ。
すると地面に埋められていただろう地雷が飛び跳ね、葛葉の頭の高さ、胸の高さ、腹部の高さまで上がって来た。
そして一瞬の猶予もなく爆発した。
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