十三話 瓦礫の国の王様
激しい戦闘は目紛るしく、そして圧巻の一言に尽きる。地上での戦いが、空へ、空の戦いも激しい。
「ボクは全力じゃないよ!」
『舐めるなァ‼︎』
緋月の筆舌できない大剣の扱いにアイシュリングと悪魔の融合体は無数の傷をつけられていた。
そして緋月が煽りを吐くと、融合体の右の手の平から黒い炎が猛り、左手では黒い雷がバチバチと音を立てていた。
『フフフ、フハハハ‼︎ これこそが最恐最悪の唯一無比の合成魔法だッ‼︎』
「へぇ〜……で?」
『―――死ねぇ‼︎』
黒炎と黒雷が合わさり激しく猛り雷鳴を轟かす。
一纏めにされたその二つの魔法は互い反発し合い、周囲の魔力を貪り食らった。が故に、その威力は絶大。
だが相手が悪かった。融合体が今戦っているのは【戦帝】又は【常勝の王】の異名を持つ最強だ。
「どっせぇい‼︎」
大剣を下から上へ、地から天へ振り登らせる。すると迫り来ていた魔法はたったそれだけで、魔力を乱され虚しくも霧散してしまった。
『ば、馬鹿な!』
「はぁ、ボクはこんなのに警戒してたなんてなぁ……葛っちゃんに笑われちゃうよ〜」
『な、なんだと⁉︎』
緋月の規格外な強さに驚いている融合体に、緋月はため息を吐くことしかできない。
前に戦った悪魔はこんなレベルではなかった。
大地が地獄と化し、天は終焉を表し、人々は絶望を伝播させることしかできない。それが悪魔というもの。
だから、
「君は紛い物だよ、半端だ」
『ッ‼︎』
「悪魔というのなら、烏の首でも取ってくるといい」
緋月のその言葉に融合体は力なく腕をぶら下げた。
そして手の平を天に掲げた。
『そこまで言うのならば、余が応じてやろう‼︎』
「ん」
散々言われた悪魔は本気で緋月を潰すつもりだ、故に大きな魔法陣が融合体の足下に展開された。
魔力の流れだけ見れば大魔法の行使に見えるが、緋月はただ冷静にその様を眺めるだけだった。
『今は無きエデンの園、悠久在り続くものなし、有形は形骸なりて、其は流転の現』
大魔法の詠唱が始まった。
普通ならば戦いにおいて魔法の詠唱は止めなければならない。だが緋月は腕を組みただ見つめる。
『滅亡し、破滅し、朽ち果てた。その最果てに立つは余一人のみ。ならば、最後は荒れ狂おう。荒野の地にて王となる』
詠唱が終盤に差し掛かり、緋月はやっと動き出した。虚空から緋月は愛剣を取り出したのだ。
『王は絶対なりて、我が王国は、朽ち果てぬ。―――【王国は虚しき大地にて】ッ‼︎』
その最後の詠唱が虚空に響くと魔法が発動した。
緋月と融合体を包み込む光の後に、視界に映る光景が全く変わっていた。
その光景はまるで、瓦礫の王国が滅びたような世界だった。
「……固有結界」
魔法を突き詰めた者のみが使用できる大魔法で在り、それは心象を露わにする行為と同義である。
そしてこの心象が意味するは。
「滑稽だね、国が滅びたのに王一人だけ生き残るなんて」
『なんとでも言うと良い。余は余の治世こそが正しいのだ。国が滅びようとも余はこうして生きている!』
「君は在りし国の影、その国は歴史にすら記されていない。哀れだね」
この心象が意味するのは、大昔に栄えた今は無きエデンの園のような都、王国の成れの果てなのだ。
『哀れではない、余が魔に堕ちても彼の国は想い出の彼方に今も現存しているのだ』
「そう。なら、ボクはそろそろ哀れな愚王に終わりを授けてあげようか!」
『余が愚王……? つけ上がったな、最強ッ‼︎』
最強と虚国の王との戦いは最後を迎える。この最後の一戦にて、両者の決着は決まるのだった―――。
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