十一話 普通のパンチ
―――鋼のような拳が地面へと落ち小規模なクレーターを形成した。
「なるほどのう、身体を鋼鉄へと変形させるスキルとは。……ふむふむ、中々に面白いスキルじゃて」
そんな相手と戦っているのは鬼丸だった。
先ほどの巨岩のような男のスキルに鬼丸は口角を釣り上げた。
「……悪りぃな、正直舐めてたよ。まさか、こんなに強いとはね」
鬼丸の強さを見に染みて理解した男は臨戦態勢のままそう口にした。
地面はボコボコでまともに歩くことはできないだろう状態だった。それほど戦闘が激しかったのだとわからせてくれる。
「それはよかったのじゃ。舐められたままじゃ、ちと不快じゃからなぁ」
男の拳を避けながら余裕そうに会話をする鬼丸。この時点でだいぶ格の違いが目に見えているが、鬼丸はニヤリとさらに笑った。
「ならば、これはどうじゃ‼︎」
そんな鬼丸の掛け声と共に突如として虚空に出現した石。鬼丸の両サイドでそれは浮かんでいた。
だが驚くのはそこではなく、その大きさだった。
先ほど鬼丸が降らした物が小さく思えるほどのサイズの石だったのだ。
「『流星一途』」
その言葉と共に石が動き出す。馬車ほどの速度で巨大な石は巨岩の男へ迫っていく。
男は一つを受け止め後ろへ投げ飛ばし、二つ目を粉砕した。鋼鉄の拳のおかげか簡単に石は粉砕されてしまった。
男が冷や汗を掻きながら作り笑いを浮かべていると、
「まだ終わってなどおらぬぞ」
鬼丸のその言葉に男がハッと後ろへと振り返った。
そして次の瞬間、後ろへ投げ飛ばした一つ目の石が男へぶつかってきたのだ。
「油断大敵じゃぞ〜?」
「は、ははっ」
石を受け止めた男は、鬼丸のそんな小さな煽りに反応することすら出来ないほどに余裕がなかった。
後ろの鬼丸の気配に冷や汗をさらに掻き、男は石をどうしようかと思っていたその時だった。
後ろの気配、つまり鬼丸が消えたのだ。
「っ」
どこに行ったと鬼丸の姿を探している時だった、遥か頭上に突然現れる圧倒的な存在感。
「ッ⁉︎」
男は咄嗟に石を空へと向けた。身体が、特に下半身の骨が悲鳴を上げるが、男はそれでも石を空へと掲げた。
そしてすぐにとんでもない衝撃がやってきた。石は砕け、今度は全身が悲鳴を上げた。
砕けた石を持っていた腕で、眼前の伸ばされている、一見したら少女の拳をガードした。鋼鉄の腕で。
「どっせい! なのじゃ‼︎」
おおよそ鳴ってはいけないような音が鳴り響き、鋼鉄の腕がだいぶ凹み歪んでしまった。
痛みはない、だが絶対に手から離れない金属バットが160キロで硬いものに当たったような痺れが手に、腕に、肩に、全身にやってきたのだ。
つまり筆舌のしようがないほどの痺れだ。
「ッッッッ‼︎」
その衝撃は男の身体を伝い地面にすらクレーターを形成させるような威力があった。
男は今までにないくらいの踏ん張りをして、その一撃を耐えてみせた。が、その一撃は鬼丸からすればただの普通のパンチで。普通で無理なら、当然本気でやるに決まっている。
(よしっ、このままこいつを投げ飛ばせば―――ぁ)
ブワッと全身の鳥肌が立つ感覚、そして身の毛がよだつような本能での確信。
(死ぬ)
男がそう確信した時だった、身体が咄嗟に動いたのだ。
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