八話 こっから
すみません、遅れました!
―――アイシュリングのその言葉を聞き届けた悪魔はニヤリと笑みを浮かべて手を出した。
手のひらをもう片方の手の指で指して、
『手を合わせろ、さすれば契約成立だ。必ず会えるぞ』
「あぁ」
悪魔の言葉にアイシュリングは一歩踏み出し手を合わせようとして、
「アイシュリングッ‼︎」
緋月に邪魔をされた。緋月の呼ぶ声にアイシュリングは背後へ振り返った。
「対価も聞かないで契約する気⁉︎」
「対価? ……そんなの決まりきっている、そうだろう?」
『ふっ、あぁ、そうだ、魂だよ。まぁ今回は世界征服でも無けりゃ、最強になりたいとかでもねぇからな。会えなくなった人間に会えるようにするなんざ、楽勝さ』
自慢げに語る悪魔をキッと睨み緋月は言った。
「それは、生きたままなのかな?」
『……? ―――ぷっ、がっはっはっは‼︎ なんつう……ふ、ふふっ。くはは! 笑わせてくれるなぁ! 人間!』
「命の保証などあるわけないだろう……」
悪魔とアイシュリングの小馬鹿にしたような声と目と態度に、イラッとくる緋月だったが、気持ちを落ち着かせて話を続ける。
「契約内容はきちんと決めれているのかな、あれだけで」
『ああ、安心しろ。余は人間のうちなる言葉を見通す。此奴は妻との逢瀬、そして余は此奴の身体で好き勝手できる。という内容が此奴の胸中にあった、故にきっちり決めれているさ』
「そういう事だ緋月君。君には苦労させられたね」
「チッ」
やはり止めれそうにないこの状況に緋月は何もかもが面倒になり大剣を構えた。
「殺すしかないか」
そしてアイシュリングを見据えた。その場の全員が動かず緊張が走り、膠着状態となった。
だがしかし、その数秒後に緋月は弾丸のようなスピードでアイシュリングに斬り掛かった。だが、
「くそッ!」
それよりも先に悪魔とアイシュリングが手を合わせる方が先だった。
契約成立。眩い光が放たれ緋月は思わず足を止めた。
次の瞬間だった。ドッと腹部にやってきた強烈な痛み、それを認識するよりも、緋月の身体が吹っ飛ぶ方が先だった。
音速に近い速度で緋月の身体は屋敷の壁へ激突した。壁面に減り込んだが勢いが強過ぎて、そのまま突き破ってしまうのだった。
「……カハッ」
廊下に倒れてやっと何が起きたか理解出来た。
殴られた。ただそれだけだった。
「あ〜、全く……」
痛む腹部を抑えつつ緋月は起き上がり、悪魔とアイシュリングの下へ歩いていった。
『ククク、フハハハ‼︎ いいぞ! 実に具合のいい身体だ!』
緋月が戻ってきた時、そこには悪魔でもアイシュリングでもない、何かが存在していた。
「ありゃ〜まっずいなぁ〜」
その何かとは、悪魔がアイシュリングの魂を喰らい身体に乗り移ったものだった。
見た目はアイシュリングなのだが、額には禍々しい角、背中には大きく禍々しい両翼が、そして何より膨大な魔力。
『グハハハ‼︎ 最強である余が、この身体を手に入れた今! この世を混沌に落とし破滅させることも可能だろうなぁ‼︎』
高笑いしよく分からない自信を持ってバカな発言をする悪魔に対して、緋月は「ははは」と乾ききった笑みを浮かべた。
『……何が可笑しい? それとも、余という絶望のせいで壊れたか?』
「え? ―――ぷっ。あはは! ……えぇ? 絶望? 最強? ははっ、くっだらな〜……。フッ、ボクはね、絶望なんてもんはあれ以来したことないね。あぁ、ちなみに最強はボクね、君は三下……いやそれ以下の塵芥だよw」
『……ククク、小娘。その謎の自信がどこからくるのか知らんが、後悔しても遅いぞ?』
そんなブーメラン過ぎる言葉に緋月はまたしても乾いた笑みで返した。
「最強……ね。最強ってさ"最も強い"ってだけだよね? 最も強い奴より最も強かったらさ……それは何て言うの?」
『はッ、御託はいい。言葉遊びがしたいなら他所でやれ。それとも逃げる準備の時間稼ぎか?』
「い〜や〜w。それはないでしょw。ドラゴンが子羊相手に尻尾巻いて逃げるとでも思ってんのぉ? 来なよ最強」
『……』
「ボクの方が最も強いからw」
煽りの応酬が繰り広げられ、一気に二人は一触即発となった。
(さぁ〜て、こっから‼︎)
そして最後の、緋月の渾身の煽りを皮切りに屋敷の一部が大爆発を起こしたのは、遠くに聳え立つ山の中腹と同時だった―――。
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