二十三話【英雄】はまだ目覚めない。
五章だけ長くなってしまった。
振り返り、緋月は笑顔で葛葉にそう言う。葛葉もその言葉に苦笑し、だったらもっと遅いですよ、と言う。
「とりあえず……ここは引いたらどうだい?」
緋月は後ろで鬼――五十鈴――と戦っていた、リリアルに挑発混じりに言う。
鬼族の巫女の系譜、何度身体を斬ろうが再生する雑魚冒険者、Lv.9のギルド長、この三人を相手にするには骨が折れる。と判断し、メイドに目配せし、緋月に向き直る。
「またいずれ相まみえることもあるのだ。その時は、全員殺すのだ!」
「はいはーい、じゃあ気を付けてねーリリアルお嬢様〜!」
「う、うるさいのだ‼︎」
格好を付けて、ワープホール見たいなゲートの中に入っていくリリアルに緋月は、最後までおちょくり倒す。
もしかしたら緋月とリリアルは旧知の友人なのかもしれない。
完全に姿が消え、葛葉はその場にへたり込む。今さっきの戦いでは、一瞬たりとも気が抜けなかったのだ、それにスキルの乱用も相まってかなりの疲労が葛葉を襲ってくる。
「うひゃ〜こりゃ酷いねー。殆ど壊滅だよー」
火もいつの間にか消えており、山火事にはならなかったが、里の家は全て全焼している。緋月が里の様子を見て回り、うわーやどひゃーと言った声が聞こえてくる。
呑気だなーと、いつも通りの緋月にそう思う。
「……あっ、そういや」
葛葉が思い出し、ずっとリリアルと戦っていた鬼の少女の下へ駆け、木に背中を預けて空を見上げる少女を見つける。
先程までの鬼の角は無く、今はただの美少女だ。
それから数十時間後。
「え? パーティーメンバーに?」
四肢を包帯でぐるぐる巻きにされ、頭にも包帯を巻かれてベッドに座っている葛葉は、目の前に居る少女へ聞き返した。
「はい」
あの時、あの場で魔王軍幹部と戦っていた鬼族の少女だ。
パーティーメンバーに入りたい、と言われ驚いているのは葛葉だけでは無い。八等分にカットしたりんごを、フォークで刺し、葛葉へ食べさせようとしていた律も驚いている。
ついでに、葛葉のベッドの中に潜り込んできた緋月も驚いている。
「え、でもいいの?」
「……? 何がですか?」
「いや、里のこととか他にも色々」
この少女は一応は避難民みたいな扱いである。里を、住むところを失ったのだから当然だろう。それに、里の復興とかだってあるだろう。
少女はあーと、そっかー的な反応だ。
「まぁ、大丈夫ですよ。あの里は捨てるみたいですし」
「捨てる⁉︎」
「はい。あの里を捨てて、酒呑童子様が居る極東の方に皆引っ越すそうですし」
「それでいいのか!?」
色々と軽すぎるだろう、流石にそれは。葛葉もついついツッコミを入れてしまった。
普通復興とかしないの? 自分達の暮らしてた場所なんだよ? まるで百均で買った文房具の如く、扱いが雑。
「でも……私はあの魔王軍幹部を自分の手で倒したいんです」
「……だから、他の里の人たちと一緒に行かないと?」
「はい」
あの戦いが始まる前に、この少女の母親が何人か連れて共に里の裏から逃げおうせたのだ。数はざっと十五人、元々の里の住民が約二百人で、かなり殺されたことがわかる。
殆どの鬼族の住民が、極東へと移り住むのに対して、この少女だけは違った。
「うーむ。私は別にいいけどー、君の親御さんは……?」
「二つ返事で良いよと」
「だから軽いんだよ」
鬼族は何かと楽観的な人が多いのか? 一応大事な娘だろうに。葛葉はため息を吐き、断る理由も無いのだから、少女のパーティーメンバー加入を承諾した。
「君の名前は?」
「五十鈴です。これからお願いいたします!」
「うん! よろしく!」
そうして、五十鈴は葛葉のパーティーメンバーとなった。
――着々と【英雄】の仲間が揃っていく。それでもまだ、物語のプロローグは終わりを迎えることはない。彼女が、次代の【英雄】が生まれるまではあと少し、ほんの少しだけ足りないのだ。そう、助けを求める声が、【英雄】を必要とする声が――
読んで頂き、ありがとうございます!
あと一話で五章は終わりになります。次は第二部! 第二部はちょくちょく出ていたあの子が、救いを求める物語です。