六話 その選択は
「また当たりません……!」
「律様! これ、多分……スキルです」
二人は一度乱れた呼吸を整えるために間合いをとった。そして相手が攻撃を交わしているところを二人は、一度たりとも見ていなかった。
故に五十鈴はその答えを出したのだ。
「……っ。でも、どんなスキルなんですか」
「わからない。……自動で避ける系、超短距離瞬間移動系、あとは……」
五十鈴が最後の三つ目を言おうとして何か気が付いたみたいに顔を上げた。
そして目の前の黒ずくめの人物へ指を刺して、
「催眠、それか……錯覚系!」
「っ、なるほど!」
二人はようやく合点が一致したことに喜びながら敵を見た。
「行きますっ‼︎」
疾風迅雷という言葉がよく似合うスピードで律は距離を詰めた。そして刀を振り抜く、抜刀された刀は敵を射止めるはず……だった。
スカッと刀は空を切り裂いた。だが、律の背後からすかさず五十鈴が駆けつけてきた。
大の大人の倍以上もある大きい十字の盾を、軽々持ってはナイフのように扱い敵へ振るった。
「―――グッ」
そして当たることのなかった攻撃がやっと敵に通じたのだった。
「なるほど、連発は不可能。……律様、畳み掛けます‼︎」
「はいっ‼︎ 合点承知です‼︎」
敵のカラクリを暴いた五十鈴と律は連携を密に、相手に隙を与えることのない攻撃を始めるのだった―――。
「―――チッ、間に合わなかった‼︎」
身体が吹き飛ばされそうな暴風が荒れ狂う。そして緋月の視線の先、魔法陣が淡い色を放ち始め、薄暗い部屋の中を照らした。
緋月は後少しのところで阻止することができなかったのだ。
邪悪な雰囲気が辺りに立ち込め、邪悪な魔力が空気を汚染する。どんよりと、重力が変わったのかと思ってしまうほどの謎の重圧感。
悪魔召喚で召喚できる最高位悪魔。
『―――クックック、現世は久しいのう』
地獄から這い上がってきた最恐最悪。
『問おう人間、貴様が余を召喚したのか?』
巨大な身体の足下、自身を見上げるちっぽけな人間を見つけ、悪魔は邪悪な笑みと共にアイシュリングへ訊ねた。
「そうだ。……そして悪魔、私と契約だ」
『……契約? いいだろう、願いを言うがいい』
「……」
悪魔の更なる問いにアイシュリングは長い長い沈黙の後、静かに天を見上げ一筋の涙を流して、か細く呟いた。
「あの世での逢瀬を―――」
「―――……は?」
スパンッ、そんな擬音が聞こえてきそうな程に、綺麗に斬り裂かれてしまった。
「え、は……あ?」
葛葉はリーニヤに謝ろうとして頭を上げた、だが同時にリーニヤの首から上が宙を舞ったのだった。
読んで頂きありがとうございます!!
面白いと思って頂けましたら、ブックマークと評価をお願いします!!