十話 しがない襲撃者
「……っ。どちら様でしょうか?」
いつでも戦えるように構えつつ相手に探りを入れた。目的もなしに見るからに貴族専用の馬車や高値の服に身を包んでいるメイドを襲おうとは思わないだろうからだ。
「しがない傭兵さ。女子供を傷付けんのは嫌いなんだが、お金を貰ってるからな許せ?」
「雇われですか……このタイミングで動くなんてっ」
前々から言われていた暗殺車、襲撃者がどうやらここで動き始めたようだった。
だが少し不可解な点があった。どうして屋敷の方ではないのかが。
「人質だよ、気になってんだろ?」
リノのそんな胸中を見透かしたように男は答えた。
人質と聞いた瞬間、リノは動き出していた。男の背後に回り込みナイフホルスターからナイフを取り出し、首に突き立てようと確かな殺意を以ってして躊躇なく刺しにいった。
だが、パンッと音が轟いた次の瞬間には、リノの肩から血が噴出していた。
「―――っ⁉︎」
何が起きたのか、リノが男を見ると、男はなんてことないという顔で何やら道具を向けていた。
リノは察した、この傷はあの道具によって付けられたものなのだと。
「痛ってぇだろ? だからあんま抵抗せんでくれよ」
「断りますっ、私達の存在意義は主人の役に立つこと……‼ たとえここで死することになろうとも、私にとってそれは、この上ない死に方ですっ!」
肩の激痛に言葉が出なくなりそうだが、脂汗を掻きつつ自分は弱くはないと相手に思わせようとする。
が男には通じずに、男はニヤッと笑い手を意味あり気に動かした。
「……狂ってんな。じゃいいや、手荒くなるが本気で生け取りにしてやるよ」
「っ、できるものなら―――……ぇ?」
抜きの瞬間、太腿を何かが突き破った。右足の力が抜けストンと地面に膝をついてしまった。
そして遅れて肩の比にならない程の激痛がやって来た。自然と涙が溢れ痛みに呼吸が乱れに乱れ、まともに息を吸うこともままならない。
右脚の太腿を見るとそこには大きな風穴が開いていた。
「―――」
傷口を直視した瞬間、激痛の度合いが上がった。今にでも泡を吹いて気を失いそうになるが、鋼のメンタルでそれを耐えた。
そして抵抗するために、立ち上がろうとしてプスッと首筋に何かを刺されてしまった。
「……な、に……を……」
「睡眠薬だ。特別協力のな、打てば最後二日は絶対に起きないぜ」
「こ……ろ、せ……」
「するわきゃねぇだろ。んなことしたら人質の意味ねーじゃん?」
「……こ……ろ、せ……―――」
注射を打たれてから三十秒してリノは気を失った。
二人のメイドが横たわるその場で、どこぞの国の特殊部隊らしき格好の男は、耳の無線機に手を当てた。
「やりましたよ、隊長」
『……すまない、よくやってくれた』
開口一番に向こうの人物はちゃんと心の籠った声で謝罪をしてきた。
『今回収部隊が向かっている。その場を引き継ぐ、そしたらお前は帰って休んでこい。……まぁなんだ。別人とはいえ酷なことをさせた、改めて謝罪したい。戻って来たら私のところに来てくれ』
その言葉を最後に無線は切れた。
「……了解」
地面に横たわるリノのことを見て、男は懐から回復液を取り出し痛々しい傷口に掛けた。
このままでら失血死してしまうからだ。そう自分に言い聞かせ、この世界とは別の世界にいる妻のことを思い出してながら、その場を後にするのだった―――。
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