二十一話 拳なくしてジャンケンするかぁ……
自分の怪我を顧みないキャラって最高にかっこいいですよね!
「ふへへへ〜うま〜」
誰もが勝敗は決したと、そう思い込んでいた。瞬間、ドォン‼︎ と轟音が響き、同時に魔物の目が飛び散る。
魔物が急な激痛に目を抑えて、絶叫をあげる。何があったのか、魔物の目からは血が流れ、止まる気配がない。魔物は痛みに悶えることはなく、ただ暴れ回る。
「――どうだー? 腕は美味かったか?」
魔物が暴れ回り、視界を覆う砂煙の中から聞こえてくる葛葉の声。ついで、ガチャと言う音も聞こえてきた。
砂煙を払い、出てきた葛葉に誰もが驚愕を露わにする。失われた筈の腕が何事も無かったかのようにくっ付いていたのだ。
「たく、まだ腕が無い感覚がある〜」
軽口で葛葉は言うが、リリアルや魔物、五十鈴にとっては有り得ない事が起こったのだ。この世界にも回復魔法や治癒魔法があるが、失った四肢を治す魔法は存在しない。
大きな怪我は治せないのだ。
「あー痛てぇ」
腕を回し、具合を確かめるように自身の腕をペタペタと触り、ホッと息を吐く。
次の瞬間、子供並みの岩が高速で葛葉の下半身を破砕する。下半身を失った葛葉は、腕で顔をガードしながら倒れ、悶えるかと思われた。
「あーぁ」
とため息を吐くだけで、先程のように悲痛な顔を浮かべたりはしなかった。
まるで四肢を失うのに慣れている、と言った感じの葛葉にリリアルは、
(こいつ、イカれてるのだ)
とそう思うほか無かった。
そして葛葉の身体に淡い光が集まっていく。周囲の魔力が葛葉の下に集まっているのだ。
葛葉の下半身に光が集まり、数瞬して霧散した。光が消え、葛葉は当然のように立ち上がった。
『――っ!?』
その場にいた、葛葉を除く全員が同じ様に驚く。
先程と同じように、失われたと思われた葛葉の下半身が、元に戻っていたのだ。
目の前で起きた信じられない光景。当の葛葉も下半身を失ったにも関わらず平然とした顔をしている。
常人ならば、下半身を失っただけでもパニックになると言うのに、葛葉はすました表情。余裕ですが? と顔だけはチート持ち転生者だ。
「……もういい、本気で殺るのだ‼︎」
「本気ぃ〜?」
葛葉はその声を聞き、はー? と怪訝な顔を浮かべる。
こう言う時の本気とかって、どうせ大した事ないやろ、と葛葉は思い込んでいた。
葛葉の知っているアニメや小説ならそうだったろう。でも、これは世知辛い現実の異世界。この世界の敵が本気を出せば、チート能力を持ってない人間など、ただのネギ背負ったカモにしかならない。魔物が飼い主の指示を聞き、本当の姿へ変貌する。
「誰にも見せたくは無かったのだ……」
「お嬢様、申し訳ございません。私めが至らぬばかりに……」
醜くかった魔物が美人なメイドさんに早変わり。葛葉も五十鈴も驚きを隠せない。
(モンスター娘ってこと?)
葛葉は顎に手を付けて、魔物から人へと姿を変えた目の前の美人メイドが一体何者なのか、思案する。
まるで日本人かのような真っ黒な髪に真紅の瞳。肌の露出がちょっと多いメイド服。秋葉のメイド喫茶に居たら人気出そうだ。
メイドは腰に携えた刀の柄へ手を置いた。その動きを見て、葛葉は直ぐに手に持っているウィンチェスターM1887を構え、引き金に指を掛けた。次の瞬間、
「――えっ?」
葛葉の腕が縦に裂け、背後から刺された。背中から腹部まで貫通し、刃がクルッと横に回され、そのまま右へ切り払われる。腕と腹部からの出血、足から力が抜け倒れる。その間も葛葉は何が起こったのか、理解不能だった。
「……うぅ、何、が?」
葛葉は、自分の腕が斬られて背中から腹を刺されたのだと理解して、刀の血を拭っているメイドへ目を向ける。無表情なメイドからは殺気を感じ取り、今直ぐにでも逃げ出したいと思うほどだ。
「……ぐっ」
葛葉はスキル『創造』で、腹の傷を塞ぎ物凄い速さで流れていく血を止める。腕の方はスキル『想像』の方で、元の状態を想像して治す。淡い光が集まり消え、傷はすっかりなくなっていた。
だが、葛葉はあまりの激痛にたたらを踏む。こめかみに手を添え、頭痛が治るのをフラフラとしながら待つ。
次第に痛みが引いていき、やっとまともに立てるようになった時、葛葉が咄嗟に避ける。そして直ぐに葛葉の居た場所に、袈裟斬りが炸裂した。
「……勘のいいお方ですね」
「ありがとっ!」
刀を振った直後の硬直を狙った、葛葉の散弾銃での攻撃。果たして、メイドには当たらなかった。
アニメのような感じで、散弾銃の弾が全部斬られたのだ。葛葉とメイドの距離は十メートルほど、そんな距離のショットガンの射撃を全部見切り、超速で迫る弾を切り捨てたのだ。
読んで頂き、ありがとうございます!
葛葉は新たに格上を驚愕させる力を手に入れた!