五話 他愛ない過去話
茜色に染まる空の下、様々な花々が咲く花壇が作り出す道を葛葉は歩いていた。
気持ちの良い風が吹き抜けては花々の良い匂いを葛葉の鼻腔に運んできた。
そして真っ直ぐ道を突き進むと、人の後ろ姿と厳かな建物が見えて来た。
よく丁寧に行き届いた清掃がなされ、五つの柱には多種多様な花々が飾られていた。朽ちることがないような花達が。
「―――終わりましたのね」
「……はい」
葛葉の気配に気が付いていたのか、気が付いたのか、クロエは葛葉へ振り向いた。
そして足元にあったバケツを手に取り葛葉へ「戻りますわよ」と一言言い建物から離れて行こうとして、振り向かず葛葉が声を掛けた。
「あのっ、どうして、クロエ様は。……何でもかんでも一人でやろうとするんですか」
葛葉はそう問い掛けるが体の向きはいたって変わらない。クロエは足を止めて葛葉へ振り返って降りた階段を登り直した。
そして葛葉の隣に並び立った。二人が目線を落とす物、それは、
「私のお母様が眠っていますわ」
墓石だった。
墓石には没年月日が刻まれて、その下には名が刻まれていた。
アダルバート・アリステア・ソフィリア。
没年月日から推測するにソフィリアは今から5年前に亡くなったばかりだった。
「言いましたわね、私が何故。自身の力のみで物事を解決しようとするのかを」
クロエは静かな声でそう葛葉に尋ね返した。葛葉はその謎の圧に、ゴクリと固唾を飲み込んで緊張を和らげようとした。
「そんなに緊張しなくても平気ですわよ。他愛もない、なんてことのないお話ですわ」
葛葉のあからさまな表情にクスクスと笑いながらクロエは話し始めた。何故自分自身の力しか信じないのか。
「私の母は病弱でしたわ。私を産んで数ヶ月は、私を抱くことも出来ないくらい弱ってしまいましたわ、一日中ベッドの中で過ごしていた見たいですわね」
墓石に超が止まった。
「その後は徐々に回復していき、歩けるようになり、初めて私を抱いたらしいですわ。大泣きしながら喜んだと聞きましたわね……」
墓石に止まった蝶を優しく手で包み込み、花壇の方へ離すクロエの顔は、懐かしさで埋め尽くされていてた。
今の話は母本人から聞いていたのかも知れない。
「そして私が五歳頃のことでしたわ。お母様の容態が急変してしまいましたの。……怖かったですわ、このまま母様が死んでしまうのではと、幼き日の私はそう思いましたわ」
それは当然のことだろう愛する母親の体調が急に悪くなったのだから。
「だから祈りましたわ。神様に、一生懸命来る日も来る日も。絶対に一日たりとも欠かさず私は祈りましたわ」
ふと横を見れば両手を合わせて天を仰ぎ、祈る仕草をするクロエの横顔があった。
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