十九話 妄想は加速する
(もしかしたら英雄ちゃんとこの子、もうそんな深い関係にッ⁉︎)
ふと思い起こされる昨日の二人の風呂上がりのくっ付きよう。間違いないとヒバナは深く頷いた。
(だとしたら攻めはどっちになるの⁉︎ アキ? いや、この子はまだ純無垢っ。だとしたら英雄ちゃん? いやありうる、あんな顔してるんだし連れも美少女ばっかだったし……)
色々と妄想が捗り過ぎるヒバナの脳はとてつもない速度で回転していた。
(でも、でももしかしたら……アキ英の可能性が? ―――あ、最高)
最後の最後、ヒバナはとんでもないことを妄想してしまった。
純粋無垢なアキが葛葉に言いよるそんな場面を。あの凛とした顔立ちが、頬を赤らめ恥ずかしそうに足を閉じ、顔を背ける英雄を、強引に振り向かせるアキの様を。
そして次の瞬間―――ヒバナの鼻からブシュッ思いっきり血が吹き出した。
キューバタンとヒバナは大量の鼻血を出し倒れてしまった。最後の気力を振り絞り、床に『百合が咲き誇りました、大切に愛でましょう』と日本語で書き、バタッと上げていた頭から力が抜けてしまうのだった。
「ひ、ヒバナさんッ⁉︎」
唐突に倒れたヒバナの身体を揺らし必死に起こそうとするが、満足気な顔をして床に倒れ伏すヒバナには意味はなかった。
反応のないヒバナに、アキは目端に涙を溜めて天に向け叫んだ。
「ヒバナさ―――――――――――ん‼︎」
と。
―――三十分後―――
床の血を拭き取るヒバナの背中を皆が見ていた。
「何があったんですか……?」
何があったのか先に来ていたシオン、クロエに葛葉はそう尋ねた。
「私も分かりませんわ、ただ来た時には血塗れで倒れていましたの……」
首を傾げながらそう口にするクロエ。どうやらこの場にいる全員は何があったか理解していない。
アキも突然鼻血を出し倒れたということしか知らず、原因は分かっていない。
真相はヒバナしか知らないのだった。
そうして迷宮入りした事件は置いておいて、
「ん、あれ、じゃあ朝食の準備……⁉︎」
ふと葛葉がそのことに気が付きアキとヒバナを見やった。
自身の血を拭き取るヒバナが固まり、ヒバナを心配そうに見ていたアキが顔を青ざめ、二人の顔が徐々に蒼白になっていった。
そしてアキが震える声で、
「出来て……ません……」
と答えた。
それを聞いたシオンの顔がピクッと動きゴゴゴとオノマトペが浮かんできそうな圧を放ち始めた。
クロエが目頭を抑え、アヤカが知らんぷりをして、ヒバナとアキが死を悟る。葛葉がどうしたものかと考えている―――その時だった。
「―――ク・ロ・エさっま〜。朝食準備オーケーでーす、て何これ?」
遠くからそうやる気のない声を掛けられたのだった。
全員の視線がそこに行き、その声の主―――ミニスカメイドの美少女ではなく、ただの変態、緋月だった。
「冷めちゃうよ? さ、早く行ってね〜」
状況把握を後にし、緋月はまずクロエにそう言い背中を押していった。
シオンがそれに着いていき、葛葉達も遅れて着いていく。が一人は血を拭き取るまでその場からは離れられない。
そんな一人―――ヒバナは泣く泣く血を拭い続けるのだった。
読んで頂きありがとうございます!!
今回で第六部三章は終わりになります!
次は四章ですね。次回から第六部の物語は動き出していきますよ!
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