十七話 二度寝は最高か
「……ふぅ〜」
自室で葛葉は大きく深いため息を吐いた。
あの後色々な仕事をパパッと終わらせて帰って来たのと、初日から色々とあり過ぎたからだ。
足を伸ばした後、ンーっと全身を伸ばし、はぁ〜っと脱力する。
むにゅ、後ろから胸を揉まれた。
「鬼丸はどうだったのー?」
揉んできたのは勿論緋月ではなく鬼丸で、そんな鬼丸は眠そうに目を擦っていた。
ポワポワとしている鬼丸は、ハイハイで葛葉の下までやってきては、ポフっと葛葉の膝の上に座った。
「疲れたのじゃ……そして眠いのじゃ……」
力のない声に葛葉は苦笑した。
今の時刻は日付が変わった頃合い、鬼丸にとってはだいぶ夜更かしだ。
普段なら22時には寝て居るからだ。
「早う……寝るの……じゃ……―――」
顔を上げ葛葉のことを見てきていた鬼丸だったが次第にうとうとし始めて、ついには顔が葛葉の胸元に埋まってしまった。
そして数秒と経たず、スースーと寝息が聞こえ始めるのだった。
「……んっ、ふぁ〜……私も寝よ」
眠って居る鬼丸の顔を見て葛葉も思わず大きな欠伸をしてしまい、鬼丸を抱えたままベッドに横たわった。
数分後には葛葉の意識も完全に消えてしまうのだった。起きて居る人間がいなくなったのを感知し魔灯石が光を放つのを止めた。
静かな部屋の中には二人の息が静かに響くのだった―――。
「―――ん」
眠っていた葛葉は薄らと瞼を開けると徐々に意識が目覚めていった。
閉め忘れたカーテンの向こうからは夜が開け始めており、空の漆黒が徐々に晴れていっていた。
「ん〜、何時だろ……」
空の色を鑑みて四時くらいかと葛葉が思い、二度寝しようとした時だった。物音が薄らと聞こえてきたのだ。
音のする方へ顔を向け小首を傾げて葛葉は、立ち上がり、部屋を出て、廊下の窓の向こうにある中庭を見下ろした。
「っ」
中庭の昨日の特訓場所と同じ場所で、シオンが一人で技の洗練をしていた。
ナイフを両手に持ち構え一歩前に踏み出すと同時、常人ならば目で追う事は出来ないスピードでの連撃技が繰り出された。そして一度技が止まると、シオンは中庭を最大限活かした戦い方に変えた。
壁から壁へスパイ○ーマンのように自由自在に中庭の中を飛び回った。そして最後に屋敷を超えるほど跳躍し、ナイフを構えながら地面に落ちていく。
闘技場の床が大きな音を立て凹みひび割れた。
見たところ身体強化系魔法を使っているようには見えず、あれはシオンの素の力であの戦いが出来るとかいうバグなのだ。
「ほんと、色々とおかしいが過ぎるって……」
あまりの出鱈目さに葛葉は苦笑しながら部屋に戻っていった。そして葛葉はそのまま二度寝を決め込む。
だがシオンはその間も一人で技の洗練をし続けるのだった。
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