二十話 覚醒は無し。
主人公の覚醒とか、暴走とかはまだ早い!
リリアルは一発を剣で弾き、二発目を既のところでギリ交わした。
「……どいうことなのだ⁉︎」
リリアルの視線の先、信じられない光景があった。
リリアルが連れてきた魔物はLv.4。対してあの少女の魔力やオーラからして、Lvは1のはず。
三レベルの差があるのだ。数字だけ見れば大したことはない、でもLvという大きな壁を乗り越えてきた者達には、その差が何を意味するか理解出来る。
理解出来るから信じられない、信じたくない。そう思うのは当然だと、この世知辛い世界を構築した神に言ってやりたい。
Lv.4の魔物が、Lv.1の少女に翻弄され、掌で踊らされてるのだから。
(右からだったから次も右か……そして左で殴るフリして右)
まるで未来予測のように、魔物の攻撃を避けては、魔物にチクチクとダメージを蓄積させていく。
関節を切り裂いたり、足の腱を切ったり、指の関節部にナイフをぶっ刺したりと、徐々に相手の体力を奪い取る葛葉。
圧倒的レベル差があるのにも関わらず対等に戦ってるだけで凄いというのに、その戦い方も異常だ。まるで人をの殺す為の戦い方のようで。
「……はぁ〜、キッツ」
一度間合いを開け、深呼吸をしため息と同時に呟く。全力で戦ってるのだ、疲れもするし、集中力も切れる。
そして先程からのスキル乱用も疲れの一因かもしれない。先から頭痛がするのだ。確固たる証拠はないが、可能性として考えられる。
この、スキル『創造』はメリットとデメリットがある。メリットは、近代兵器やナイフ等の武器の生成。デメリットは、この頭が割れるような痛みのする頭痛。
(でも、本当にそれだけか?)
これは憶測に過ぎないが、きっと回数制限もありそうだ。もう既に三回使っている、後何回か……五回か十回か、もしかしたら制限は無いのかもしれない。
でも、可能性があるのなら考慮しなくてはならない。
戦いにおいて最も重要なのは情報。戦術や武器など二の次だ。情報を手に入れ精査した後に戦略を練り上げる。それが戦いだ。
事実、葛葉も現在進行形でやっている。
(――っ、攻撃の仕方が変わった? あと二ターン程様子見するか)
今までの戦い方とは一風変わり、魔物の攻撃を避けるので手一杯になる葛葉。先も同じように、最初は攻撃を避けて避けて避け続け、相手の行動予測が大体理解出来た頃に攻勢に打って出る。
まるで対戦ゲームでもしているような慎重さと、戦い方だ。まるで将棋だな。
「――って、あぶ!?」
とふざけた事を考えていた時だ、急に相手がフェイントを入れてくるようになった。
規則性がない戦い方の場合は、戦略ではなく戦術が勝る。ゴリ押しされれば、完璧で隙のない戦略だとしても、隙が生まれる。
そう、魔物は同じ攻撃だけをするのではなく、がむしゃらにランダムに攻撃をし始めた。
「チッ! 魔物は魔物らしく戦えっての!」
銃を構え引き金を引く。三発の弾丸は見事魔物に当たるが……威力不足すぎる。
やはり拳銃は魔物には効かないようだ。デザートイーグルなら多少なりとも戦えたが、残念なことに九ミリ弾薬。人には有効だろうが、異世界の生物には効果がないのだ。
「――ヤベッ」
一瞬を突いた魔物の攻撃。大上段から振り下ろされる巨拳が、大地をかち割り地面に罅が入り、葛葉は体制を崩してしまう。
魔物はその一瞬を見逃さず、葛葉の身体を鷲掴みニヤァと顔を歪めた。
「ぐっ……チッ」
「うまそ〜」
魔物はそう言うと、躊躇なく葛葉の腕を引き千切る。
筋肉が皮膚が裂ける感覚、脱臼し今にも死んでしまいそうな痛み。葛葉に出来ることは、反撃ではなく今まで味わった事のない、頭がおかしくなりそうな痛みに堪えるのみ。
そしてギチチチと言う音を最後に、ゆっくりと葛葉の腕が千切れ、肩から大量に出血する。
「――っ⁉︎」
あまりの激痛に声も出ずに、ただ身動きできない状態でバタバタと足を動かして、残っているもう一方の腕で魔物の手を叩く。
魔物は、蚊に刺される方が痛いと言った表情を浮かべ、引き千切った腕を口の中へ放り投げた。
読んで頂き、ありがとうございます!
これは個人の感想なんですけど、物語の最初に覚醒したり暴走するのは、なんか違うなーと。
それに、この物語の主人公はチート持ちでは無い設定なので、暴走は無しです。(秘められた力なんかありません)