十四話 もちもち触感
「―――聞いた話ではこうですね!」
とアキと一緒に湯船に浸かって居た葛葉は、秋の話に夢中になって居た。アキが今までで小耳に挟んできたシオンの過去を話してくれたのだ。
「そんな過去が……」
「大半の人はこのことを知って居るので、シオンちゃんのあの態度も当然と思っていますよ!」
アキのその言葉に葛葉は顎に手を当てて首肯した。
家族を亡くした絶望感は葛葉も知って居る。だがそれでも心を閉ざさなかったのは妹が居たから。
でもシオンの場合は違った。唯一の肉親は両親だけというのに目の前で死んでしまったのだから。
その絶望をまた味わいたくはないだろう、故に心を閉ざし自分を守ろうとする。葛葉もつい最近あったことだ。
「でもアキは仲良くなりたいです! シオンちゃんと!」
アキの石は硬いらしく力強い言葉でそう宣言されてしまった。ここですることかな、と葛葉は思ってしまった。
「居場所、か」
それは人が生きてくには絶対に必要ないものだとクズは思って居る。疎外感を永遠と感じながら生きていくなんて、開き直った人間でも不可能だろう。
それを葛葉と同い年か一個上の、まだ幼い少女が抱えて生きていこうと決意してしまっている。
(これはきっと偽善。偽善か同情、私はそういうのが嫌い)
でも葛葉の小根は腐って居ない。葛葉からすれば小さい子が辛い思いをして居る、それだけで救いたいと思う理由には十分なのだ。
グッと拳を握り締め覚悟を決める。まずはアキ同様に、シオンとの仲を深めていく。
「アキさん、私も手伝います!」
「っ! はい‼︎ がんばりましょう‼︎ ―――あ、あと私のことはさん付け出なくていいですよ!」
獣人のアキのケモ耳と尻尾が嬉しいのか激しく揺れて葛葉に水がかかる。
二人はこの日、シオンとの仲を深めるべく協力することにするのだった。
「じゃあ、まずっ! アキと仲良くなりましょう!」
「え」
立ち上がって居たアキが湯船に浸かったと思えば、またバシャァと立ち上がったのだ。
そして葛葉の後ろに回ると、アキは自身のたわわに実った果実を無自覚に葛葉の頭へ置いた。すると葛葉を後ろから強く抱きしめる。
「仲良くしましょうね! 葛葉ちゃん!」
アキのその言葉に葛葉は戸惑いながらも首を縦に振った。たわわに実った果実は物凄く柔らかくて心地よかった。
それと同時に葛葉は、アキを緋月には近づけさせないようにしようと、思うのだった。チョロそうな律と同じ気配を感じたからだ。
「お、重い……苦しい」
「アキ、英雄様をぎゅ〜ってしてます! 凄く嬉しいです!」
葛葉の小さな声は残念ながらアキには届かず、さらに苦しくなってしまう。
下心のない抱擁はあまりしないため、新鮮だと感じながら葛葉は瞑目するのだった―――。
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