十三話 冷たい理由
ガチャッと部屋の鍵を閉めクロエはため息を吐きながら、肩を大きく上下させる程の荒い息で必死に呼吸をし、胸を強く握りしめて抑えるシオンの肩に優しく手を置いた。
「今日もご苦労様ですわ」
クロエはそう声を掛けて最大限、シオンを労う。今、そのシオンには受け答えできる余裕はなく、苦しそうに必死に呼吸をするだけだった。
「魔力ももう殆どありませんわね」
机の上に置いてある薬を手に取り、クロエは心配そうにシオンのことを見るのだった―――。
―――今から十年ほど前、シオンはズタボロの布切れ一枚の姿で浜辺に倒れているところを、クロエが見つけ保護したのが最初だった。
シオンは遠い国の戦災孤児だった。両親は目の前で死に、その際にシオンは転移魔法か何かの魔法によって、この王国の主要都市、海上要塞都市の近くの海域に飛ばされ、そこに流れ着いたらしい。
行き先も帰るところもないシオンを、クロエは憐れみこの屋敷の従者として住み込みで雇おうと決めたのだ。
それから長い長い間、シオンにはお世話をしてもらってきた。
だが日に日にシオンの体調は悪くなっていく、どんなに腕のいい治癒師を連れてきても、どんな魔導士でも、どんな医者でも、シオンの体調を改善してくれる者は誰一人として居なかった。
だが医者からは薬を貰い、それを毎日飲み続けることで前までは悪化せずに済んだ。だが、最近は薬を飲んでも、1日の摂取量を増やしても悪化する一方だった。
だがクロエはシオンのその症状を和らげる方法を見つけた。それは魔力を常に発散・意識を向けさせることで、シオンの体調はだいぶ良くなったのだ。
それでも限界は必ず来る、それまでに原因の解明をせねばならないのだ。
「―――と言いましても、何すればいいんでしょう」
やれることはもう既に尽くした後だった。
クロエがそんなこんな考えていると、息が整ってきたシオンが立ち上がった。が立ち上がった瞬間よろめき、倒れそうになってクロエに支えられる。
「す、すみません」
「いいんですのよ。……普段酷使し過ぎて居るのは私ですわ」
「いえ、無理をしてでも、私はクロエ様のお役に立ちます、立たないと行けないのです」
皆の前では感情的になることは万に一つもないシオンが、今は胸の内を曝け出し表情も豊かになって居た。
「でなければ私は、この屋敷での居場所が……」
人との関わり合いを避けるシオンは良く思われない。それは必然で、同じクロエの専属メイドである他三人ともまともに話したことはない。
アキとはほんの少し仲がいいほどで、他二人とは話したことすらなかった。
「今は、休みなさい」
シオンの背を優しく叩き宥めるクロエは静かに、己の大切なメイドにそう命じるのだった。
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