十九話 これが……シュタインズゲートの選択だよ
小手先の技だけで強いキャラってかっこいいよね。
「……何なのだお前は」
「……」
キッと鋭い視線が、葛葉に向けられる。葛葉は無言で、茂みから出て来て口元をニヤリとさせ瞑目している。含み笑いをしてるようにも見えるが……。
(やっちまった‼︎ まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいっ‼︎ 何考えてんだよ私‼︎)
ただ単に平静を装うとしてるだけである。今の葛葉に一切の余裕は、無いっ‼︎
身体も携帯のバイブレーションのように震えており、良い取り方をすれば武者震いで、悪い取り方をすれば、ただ怖くて震えてるだけだ。
明らかに目の前の敵はヤヴァイ。殺気だけで人を殺せるだろっ‼︎
今にも失神し失禁しそうな葛葉は、顔面蒼白のまま蛇に睨まれた蛙のように、身動き一つしない。
ナイフを抜こうとすれば、多分……いや確定で串刺しだ。銃を構えようとしても串刺しだろう。
ならば創造でフラッシュバンか手榴弾でも作るか? いや、投擲して直ぐ串刺しだな。そして投げた手榴弾も串刺しだろうな。
(…………………あれっ? 詰んだ?)
刻一刻と流れていく時間の中、葛葉は最悪の可能性にしか行き着かない未来に、自分の置かれた状況がいかにヤバいのか知る。
(なるほど……これが、シュタインズゲートの選択か。クソッ、機関め!)
死の間際にアドレナリンが過剰分泌したのだろう。テンションがバグっている。
このまま辞世の句でも読んでやろうかと思っていた頃、相手側に動きが出た。
「もういいのだ! アイツを殺れ」
子鹿のように震える葛葉を、魔物に殺すように指示を出す少女。その少女の声を聞き、葛葉の口元が少し緩んだ。
数ある詰みの未来から逃れれる一つの道、それはあの魔物を葛葉にぶつける事である。
一見するとただのオーバーキルだが、葛葉は今までのほんのちょっとの時間の戦闘で、あの魔物の本質を見抜いた。
どう言う戦い方をし、どう言う技を繰り出してくるのか、パターンを読めればたとえ相手が超凄腕プロゲーマーであっても。たとえ竜王であっても、たとえ世界ランカーのテトリスプロゲーマーであっても……。
葛葉は必ず勝利を勝ち取れる――っ‼︎
「――さて、邪魔が入ったが、続きをするのだ」
「……」
殺意に満ちた目に睨まれても、リリアルは臆する事なくただ笑顔を浮かべる。
戦いという遊びを楽しむ子どものように。時に残虐な子ども――悪魔のように。
「――っ!」
リリアルが目の前から消え、五十鈴が視線を辺りに振り、姿を探すがどこにも居ない。
何の気配が感じ取れない。足音も呼吸の音も殺気も何もかもが。
そして……。
「……ぐっ!?」
後ろからの唐突な突き攻撃。剣は五十鈴の背中を突き破り内臓を傷付けながら、お腹まで届く。一度深く刺されては、思いっきり、力の限り引き抜かれる。
溢れる血、走る激痛、ふらつく足。
再起不能の致命傷……だが。
「……あ、チッ」
刺された所はたちまち治り始め、一瞬にして傷口も塞がり内臓も修復される。
これが鬼族の力の一つである超再生。
鬼は自己再生能力を保持しており、かすり傷なら二秒で治り、骨折なら一日もあれば完治する。
それ程までに再生能力が桁違いなのだ。それに角の超強化が合わさり、骨折すらも一秒で治せる。
だから五十鈴は地震の怪我も顧みない戦い方を出来、この最悪コンビとここまで殺り合う事が出来る。
「卑怯なのだ……」
顔を顰めさせ、はぁ〜っと長いため息を吐き、手を振り上げる。
同時に、五十鈴の足下に何個かの歪みが出来、丸を形成し剣の切っ先が五十鈴に狙いを定める。
五十鈴は遅れて反応し、後方に避けようと跳んだが、足に攻撃を喰らってしまった。
そして、リリアルはそれを見逃さない。五十鈴に反応させるいとまも与えず、圧倒的な力の差でねじ伏せようとする。
リリアルの持つ長剣が五十鈴の心臓部を穿つ……はずだった。
またしても鳴り響く音。そしてリリアルを一糸乱れずに、弾丸はリリアルの心臓、脳へ飛んできていた。
読んで頂き、ありがとうございます!
葛葉には凄まじい洞察力と瞬発力があるので、この世界でもまぁまぁやれでいけるんです。