十一話 戦いは決着へ
本当にすみません
(あの体勢から一瞬で……⁉︎)
剣を弾かれ仰け反っていたはずのクロエヴァだが、今は右足で蹴りを繰り出していた。
一瞬で体勢を変え、攻撃をしてきたクロエヴァに葛葉は仰天してしまった。
「……まさか【英雄】と持て囃されている人の限界でして?」
安い挑発。葛葉はすぐにそれを理解したが、お嬢様言葉で言われるとものすごくイラっと来た。
葛葉は走り出した。冷静に、ナイフを握る力を強めて、一瞬でクロエヴァの懐に潜り込んだ。
そして刀を横薙ぎに振り払った。その葛葉の攻撃をクロエヴァはまたしても受け止めようと、剣を突き出しナイフを受け止めた時だった。
「―――っ‼︎」
クロエヴァの持っていた剣の刀身に罅が入り、そのまま真っ二つに折れてしまった。
咄嗟に身体をくねらせギリギリの所で葛葉の攻撃を避けた。
(なんですの、さっきは受け止めれていましたのに……っ。本気……とも違いますわね、一体……?)
まぁいいかと考えるのをやめ、クロエヴァは地面に手を付いた。
「……?」
唐突なクロエヴァの行動に葛葉は判断が遅れてしまった。
「『礫弾丸』」
その詠唱と共に地面の小石が浮かび上がり葛葉へ向かって亜音速で飛んでいった。
葛葉はそれを避けることなく喰らった。
「何を考えているのか分かりませんが、私の攻撃はまだまだでしてよ! 『砂塵牢獄‼︎』」
地面から砂塵が舞い上がり葛葉をドーム状に囲った。砂塵の向こう側は全く見えず、音も聞こえない。
葛葉はただじっとクロエヴァが何をしてくるのかと警戒をするだけだった。
砂塵の向こう側、クロエヴァは詠唱をしていた。
「猛れ焔よ、舞い上がれ爆炎よ。其は圧倒的な力、単純なる暴力、絶望のきのこ雲。全てを灰燼と帰す爆発を―――!」
魔法陣が複数展開される。周囲一帯の魔力の全てがクロエヴァへと集まっていった。
そして魔法は完成する、クロエヴァはなんの躊躇いもなしに、砂塵の牢獄へ向けて魔法を放った。
「『原子崩壊爆発』」
クロエヴァの放った魔法は砂塵の牢獄へ見事に的中した。衝撃波や爆発音、暴風が全てを薙ぎ倒すはずだが、今クロエヴァの居る闘技場は特殊な結界で守られているのだ。
その特殊な結界が可視化するほどの威力だが、結界はその爆発の衝撃に耐えたのだ。
「あ、これ……は。コホン、やり過ぎましたわ……」
今になって正気になったクロエヴァが、目の前の惨状に申し訳なさそうに思った。
これを掃除するのはメイド達の仕事なのだ。今は土煙で何も見えないが、きっと膝をついて絶望しているだろう。そんなこんな考えている時だった。
バッと土煙の中から緋色の軌跡が飛び出してきたのだ。
「ッ!? な、なんですの、あの速さは⁉︎」
土煙の中から飛び出した緋色の軌跡は、クロエヴァが瞬きをした次には壁を走っていたのだ。
呆然としているクロエヴァだったが、三発の連続して聞こえてきた音にハッとした。咄嗟に後ろへ飛び退くと、クロエヴァの居た所に何かが着弾した。
「ろ、『礫弾丸‼︎』」
緋色の軌跡へ向かってクロエヴァは連続して魔法を放った。礫の弾丸が弾幕となり、緋色の軌跡の足を止めるはずなのだが、緋色の軌跡は止まらない。
「なんなんですの⁉︎ ―――ぁ」
クロエヴァがそう口にした時だった、トンと優しく腹部に手を当てられた。
見てみると、そこには傷だらけでボロボロの葛葉がいた。
「……『恒星風』」
その短い詠唱をクロエヴァが耳にした瞬間、高音と身体が吹っ飛ぶ感覚を感じた。いや、実際にそうだった。
ドンッと結界に背中をぶつけ、骨が何本か折れる音を耳にし、地面へと落ち、腹部の火傷に悶え苦しむ。
そんなクロエヴァの元に、葛葉が歩み寄って行き、そして銃を構えた。
「……これでお終い」
そして葛葉は躊躇なく引き金を引いた。
ゴムの弾丸がクロエヴァの眉間に見事に当たり、クロエヴァは意識を失った。
「―――はぁ……しんど」
身体中の怪我に葛葉はため息を吐くのだった。
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