十話 戦闘開始
―――闘技場のど真ん中で葛葉は苦笑を浮かべていた。
急展開だが、まぁそれはいつものことなので、もはや葛葉は慣れっこになってしまっている。
今葛葉の目の前には、髪を後頭部で一つに束ねて垂らした、ポニーテール姿のクロエヴァが居た。
クロエヴァの持つ手には真剣が握られており、これから本気の決闘をするのだと、葛葉は覚悟を強いられていた。
「・・・ほんとにやんないといけんの……? ああは説明されたけどさ……」
確証がないため、本気でやれるわけがないのだ。
葛葉がこの闘技場の中に入る前に伝えられた、特殊結界の効果。そして後ろに控えるヒーラーのメイド達。
後者は信じられるが前者はNoだ。
そんなこんな葛葉があれこれと考えていると、ザッとクロエヴァが目の前に立ちはだかった。
「遠慮は要らないですわ! 貴方の本気を見せてくださいまし!」
「……ん〜。分かりました、本気でやりますよぉ」
貴族令嬢とバトルするとは思っていなかった葛葉は肩を落とし、気乗りのしなさそうな顔で対峙した。
そして試合の合図をするメイドが中央に来た時、葛葉はナイフを『創造』して構えた。同様に、クロエヴァも両刃剣を構えた。
「それでは、試合……開始っ!!」
そのメイドの掛け声と共に二人は火花を散らした。
ギギギと鋼と鋼の競り合う音が場を支配する。葛葉は二本のナイフで受け止め、クロエヴァは両刃剣を押し込もうとする。
だがそれより先に葛葉が動いた。クロエヴァの剣を押し除け弾き、クロエヴァのガラ空きの懐に刺突しようとしたが、クロエヴァが剣でガードする。
またしてもガキンッ! と甲高い音が鳴り響いた。
(剣の扱いが上手い……っ‼︎)
クロエヴァから距離を取った葛葉が目を見開き驚きを露わにした。
葛葉と大して歳の変わらないはずの少女とは思えぬ剣捌き。並大抵のものではない。
剣に素人な葛葉でも理解出来る。この目の前の少女がただ傲慢に生きてきたわけではないと。
「行きますわよ!」
今度はクロエヴァが動き出した。
冒険者ではないはずのクロエヴァだが、素早い動きであっという間に葛葉へ迫った。
気が付けば目の前にいたクロエヴァに、防衛本能が機能し咄嗟にナイフで攻撃を防いだ。
(―――ぅ! 重っ⁉︎)
そのクロエヴァの攻撃はずっしりとくる重さだった。
攻撃を受け止めた葛葉は踏ん張りグググと徐々に押し返していった。
「っ!」
先程と同様な構図、葛葉は攻撃するかしないかの一瞬の逡巡をしてしまう。その時だった、気が付けば目の前に靴の底があった。
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