一話 馬車での一時
このお話から第二章です!
ガラガラと馬車の車輪が街道を中々のスピードで駆け抜けていく。
そんな馬車の中で鬼丸が真顔で正面を眺めながら横にいる葛葉へ声を掛けた。
「……のう、葛葉よ」
「ん〜?」
せっせと手を左右に動かしつつ鬼丸に返事をすると、鬼丸が顔を引き攣らせながら、
「最近馬車に乗ってばっかじゃな」
「そだね。……流石にお尻が痛くなるね〜」
鬼丸に顔を一切向けず葛葉は適当に返す。次第に鬼丸の額に血管が浮き上がってきて、我慢の限界が迎えてしまった。
葛葉の膝にあった頭を―――アホ毛を稲のように掴み、思っきし馬車の壁へと叩きつけたのだ。
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあい⁉︎⁉︎」
完璧に油断していた誰かさんが顔面と身体を叩きつけられ、安らかな眠りから目を覚まし断末魔を上げた。
「あ、あんまり暴れないでくださいよぉ〜!」
御者で馬の手綱を握っていた犬系獣人のメイド、アキが小窓から中を覗き込み、今さっきの衝撃の正体を知り注意を促した。
だが怒り心頭の鬼丸にはその言葉は届くことはなかった。
「ちょっと鬼丸‼︎」
「なんじゃ‼︎」
えぇ……っと突然のことに唖然としたいた葛葉が、鬼丸の暴挙に声を上げるが、鬼丸の圧に若干尻込みしてしまう。
律があわあわと震えて、五十鈴はコク……コク……と今にも眠りに入りそうにウトウトとしていた。
「何してるの‼︎」
「なんもかんもあるか! 何平然と膝枕しとるのじゃ! するべきはわしじゃろう⁉︎」
「いや、そんなことないよ?」
葛葉の言葉に鬼丸は不満を吐いた。
「うぅ、葛っちゃんママぁ」
「ママじゃないですし引っ付かないで下さい!」
泣いたふりをしながら這い寄って脚に抱きついて来る緋月を振り落とそうとする。
「全く……鬼丸、勘違いしてるよ」
「何がじゃ〜‼︎」
ダンッダンッと地団駄ってレベルじゃねぇぞな音を鳴らしながら鬼丸はキッと葛葉を見た。
はぁっとため息を吐いて葛葉は緋月を膝枕することになった経緯を話し始めた。
「私が緋月さんの膝枕してたのはね。馬車に乗ってる間はずっとくっ付いてれば、あっちに着いたらいつも見たいにちょっかいは出さないって条件だったから」
「……それがなんなのじゃ?」
あまりピンとこないらしい鬼丸の手を引き葛葉は、席に座って優しく、分かりやすく説明を始めた。
その間、眠りを盛大に邪魔され放置された緋月は不機嫌そうに顔を顰め胡座をかき、律の胸を揉んでいた。
「―――なるほどのう! じゃが、許せん。殺す」
「ちょっと⁉︎」
結局何も変わっていない鬼丸の結論に、葛葉はすぐに止めに入った。
「離すのじゃ〜! 殺す……こいつは殺さないと駄目なんじゃあ〜‼︎」
羽交締めにされた鬼丸はジタバタと暴れ回り拘束から抜け出そうとするが、葛葉は奥歯を噛み締めてそれを必死になって阻止した。
「ちょっと葛っちゃ〜ん、膝枕は〜? ラブラブキッスは〜? ○○○○は〜?」
「あなた死にたいんですか⁉︎ なんで可燃性ガスで満たされた密閉空間でライターの火を点けるようなこと言うんですか!?」
規制音を聞いた鬼丸が凶行にはしりそうになり、葛葉は必死になって緋月を殺させないように努力した。
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