十九話 実は……
「え――――――――ッ⁉︎」
リビングにて五十鈴におもてなしされていた葉加瀬から葛葉は衝撃的なことを言われ、驚きのあまり大声を上げてしまった。
「……聞いてなかったの?」
ブンブンと葉加瀬の言葉に葛葉は何度も首肯した。
そんな葛葉を見た葉加瀬は、葛葉の隣で元から小さい身体をさらに小さくした緋月に視線を向けた。
すると緋月はバツが悪そうな顔で、
「……言い忘れてました」
と力なく素直に答えた。
葉加瀬が目頭を抑え、葛葉は苦笑を浮かべた。
葛葉は葉加瀬が持ってきた一枚の依頼書に目を向け、長ったらしい文の中に強調された一文を音読した。
「『依頼期間は一ヶ月になるため、ギルドからのそれ相応の報酬とサービスが与えられる』。それで、葉加瀬さんは……」
「一ヶ月間、この屋敷を綺麗に保とうかと思ってね。うちのお掃除精鋭部隊を連れてきた」
後ろに控えている四人のメイド。全員掃除用具を手に持っており、有無を言わせぬ威圧感があった。
そういった諸々の理由を葛葉達に伝え忘れていた緋月はただ今絶賛しょんぼり中なのだ。
「腕は確かだから、安心して。……それで依頼期間は一ヶ月だが、受けてくれるかな?」
一ヶ月間もの間護衛しなくてはいけないことに、若干の面倒臭ささも感じる葛葉だったが、一度受けてしまった依頼ゆえに、
「やります!」
最後までやってみることにするのだった。
「ありがとう。……それじゃあ準備の続きに戻って、公爵家の馬車が到着するまで一時間を切ったからね」
葛葉の答えに葉加瀬はホッと胸を撫で下ろし一安心と共に顔を少し曇らせた。
その微細な変化に葛葉は気がついてしまった。
「葉加瀬さん……?」
「……ん? あ、あぁすまない。顔に出ていたかな? いやね、少し寂しいんだ」
「……寂しい、ですか?」
葉加瀬の言葉に葛葉はキョトンと首を傾げた。
緋月も葛葉と同じらしくキョトンと首を傾げていた。
「まぁ特に深い理由はないよ。……帰ってきたら話を聞かせて、緋月も」
「ん、あー。うん、わかったー」
寂しいと言った理由をはぐらかし、葉加瀬は席から立ち上がった。そしてメイド達にあれこれ指示を出し葉加瀬はリビングを後にするのだった。
「……緋月さんもって、言ってましたね」
「うんー、言ってたねー」
葉加瀬の言葉が妙に引っかかる葛葉は横に居るはずの緋月に声を掛けながら顔を向けた。が隣に緋月は居なかった。
緋月はいつのまにか席から立ち上がり、仁王立ちをしていたのだ。そして緋月の身体が光に包み込まれた。
「……ふっふっふ、実はね葛っちゃん」
光の中から緋月の声が聞こえて、葛葉は眩い光に手を翳し指の隙間から光を見た。
そしてさらに眩く光り輝き閃光がリビングを照らした。光が収まり全員の視線が緋月へと向いた。
「今回の護衛依頼……」
光が霧散し、その中心にいた緋月の格好は変わっていた。
先ほどまでの軍服のような服とは全く違い、フリフリが大量についた黒と白のメイド服に。
「ボクも同行するんだい‼︎」
と今まで秘密にしていたのか、ドッキリ大成功と言わんばかりの顔で緋月は自身のメイド服姿を皆に晒すのだった。
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