十六話 魔力の恐ろしい力
もうそろそろ戦闘シーンになります!
「――全く、最後の最後で被害が大きくなったのだ」
ゴブリンエリートの死体を見下ろし、リリアルはそう嘆く。魔王からは部下や人は殺すな、と言い躾らているが……。リリアルには意味がわからない。
これは戦争だ。ごっこでは無い、血で血を洗う戦争だ。何百年も続く地獄の絶滅戦争だ。
種の存続が掛かっている戦争であり、敵に情けをかけるなど以ての外、それが例え民間人であっても、何もできない弱者であっても。
「はぁ、早く本来の任務を遂行するのだ――ッ!?」
と部下に指示を出した時だった。人知を遥かに超えた魔力が溢れ、本能が恐怖する。
膨大な魔力は一時的に溢れ飲み込まれる。
「次から次へと……次はなんなのだ!」
さっきから同じ反応しかしていない、と思いつつ。次は何だと魔力が飲み込まれている方を向くと、族長の息子の死体に目を向けたままの鬼の少女が居た。
森全体に渡った魔力は、森全体の魔力をも巻き込み、あの少女に吸い込まれていく。
「……――ッ‼︎ お前が巫女の生贄!」
少女の正体に察しがついたリリアルは、本気で殺しに掛かった。
「ひっど……」
「うぅ……冒険者になったからには、この程度で動揺なんか〜……うっ!」
「吐くならあそこにしてね」
血と臓物で染められた地面。中には魔物の血と臓物があり、腐敗したような臭いが鼻を刺激し、鼻がひん曲がりそうだ。グチャグチャと歩くたびになる音が不快感を更に増させる。
魔力の波が来た方向に向けて、歩き続けると地獄と見紛うような光景が広がっていた。葛葉はまだ少し耐性があるが、どうやら律には無いようで。
葛葉が言った通りの茂みの所で、リバースしている。
「生き残りは……居る訳無いか」
「う、うぅ……久々に吐きました」
「スッキリした?」
「……いえ」
どうやら吐いてもスッキリはしないようだ。
律のやつれた顔を見れば、この光景がいかに悲惨なのか、どれほどに地獄に似ているのか。
絵や写真では伝わらない、遠くから見ただけでは感じられない、その場にいる者だけが言えるのだ。ここは地獄だと。
「……っ! 律!」
「は、はい! どしました!?」
「……息がある! まだ生きてる人が居る!」
地の海の中、微かに呼吸をし命をギリギリと状態で保って生存者を葛葉が見つけ、律を呼ぶ。
律は急いで――途中途中内臓とかを踏み、転びそうになって顔を真っ青にさせたりしながら――葛葉の下に駆けつけた。
「ほ、本当ですね……こんな傷で」
生存者の身体は見るに堪えない。腕なんかは千切られたかのように欠損し、右目が本来あるべき所から取れていて、地面に転がっている。
脇腹は肋骨が見えるほど抉れており、内臓もかなり損傷しており出血が今も続いている。脚は腱を切られ、脛あたりを曲げられており想像しただけで失神しそうになる。
本当に何故生きてるのか分からない。常人じゃなくても、これ程のダメージを喰らえば即死だろうに。
「……昔、古い本に載ってたんです」
と唐突に律が、生存者の傷口にポーションを掛けながら、葛葉に――独り言のように――話し出す。
「魔力保有量が多い者は、例え生命力が潰えたとしても魔力が生命力の代わりになって、魔力が尽きるまで死ねないそうなんです」
「……そ、そんなの……生き地獄じゃん」
直ぐに死ねずに、激痛をずっと味わい徐々に死んでいく。それならまだマシだろう。でも、この生存者の場合は、徐々に死ねないのだ。
魔力を察知するスキルや本能的スキルを持っていない、葛葉にですら莫大の魔力が感じ取れる。頭が痛くなり、嘔吐してしまいそうになるくらいに。
気を失ってもこの生存者は痛みを感じているのだろう。表情を見れば一目瞭然だ、苦悶の表情をしているのだから。
「……律」
「はい」
「この人を助けるには街に行かなきゃならない。分かるよね」
作り笑いだ。内に秘めるモノを隠し、相手に察せられないようにする、葛葉の十八番だ。
学校から帰ってきて、妹にいつも浮かべていた……薄っぺらい笑いだ。
読んで頂き、ありがとうございます!
しょぼい十八番ですね。