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十一話 過去は消えず、今なお蝕んでいる

 ―――その少女は信頼出来る友達・仲間に飢えていた。

 その少女は良家の生まれで、幼少の頃から両親の英才教育に振り回され、友達付き合いも中々出来ず、自然と他者との関わり合いを嫌い、自分のことは自分一人でどうにかするような性格へと成長してしまった。


 小中高一貫の私立校を通っていた少女に友達など居らず、孤高の一匹狼で、両親の期待や周りの大人の期待に応えるだけのロボット。そんな陰口を叩かれる毎日。

 少女の心は荒んでいった。


 何をするにも全てに疲れてしまった少女は、気が付けば異世界に居た。薄暗い森のなかで、たった一人で。


 勝手の分からない状態で、少女はただ迷いの果てに魔獣に殺されそうになった。でも、救われた。


『大丈夫⁉︎』


 人の数十倍の体躯を持つ獣の攻撃を受け止め、凛とした顔、立ち振る舞いで、他者を心の底から心配してくれた人物。

 その人物に少女は憧れ、その人物は少女を仲間に引き入れた。


 友や仲間という物に飢えて、心の何処かでそれらの存在に憧れていた少女は、喜んでその人物と共に歩み出した。

 その人物のカッコ良さに惚れたのもあったが。


 紆余曲折ありながらも少女と憧れの人物+仲間達は、異世界を面白おかしく旅をし続けた。

 そして五年前。世界中を震撼させる出来事が起きてしまった。


 それはイレギュラーの発生だった。少女達が王都を発とうとしていた時だった、『星を眺める者(スターゲイザー)』の封印が解けたのだ。


 少女達は急遽、スターゲイザーの討伐作戦に加わった。王都中の冒険者と、王都近衛騎士団、その団長を含む精鋭の騎士達が派遣された。


 戦いが始まり、最初のうちは順調だった戦いも、着々と少女達―――討伐軍が不利になっていった。


 そして戦いの終わりが近づいてきた時、少女は油断してしまったのだ。だがそんな少女を『星を眺める者(スターゲイザー)』の攻撃から憧れの人物が庇ったのだ。主戦力を失った討伐軍は多大なる犠牲を払い、星を眺める者(スターゲイザー)を再封印。


 世界は悲しみ包まれてしまった。

 だが世界よりも悲しみに暮れていたのは少女だった。人生で初めて憧れた人物が、自らの油断のせいで死なせ、手の届く距離だったのに死なせてしまった。


 悲しみは憎しみへ、星を眺める者(スターゲイザー)と自分に対して。少女は修羅と化した。


 果てしのない闘いの毎日だった。戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って、戦い続け、禁じられた術式の在処などの様々な情報を集めた。


 そして禁術を行使し、哀れにも死ねない身体になり、途方に暮れた。修羅と化した憤怒も、いつしか消えてなくなっていた。燃え尽きたと言うのが相応しい。


 途方に暮れていた少女はある日、過去の仲間に再会した。少女はその仲間に説得させられ、永劫の生を歩んでいく覚悟を決めた。何もかもを置き去りしてしまい、いつしか孤独となってしまう生を。

 愚かな少女は―――。




「―――もう、いいです」

「……」

「緋月さん……辛いのなら私の胸を貸しますよ」


 話してる最中、緋月の身体は震えていた。そして頑なに顔を見せようとしなかった。

 緋月の話はどう考えても、緋月自身の過去のことだ。そんなのは辛いに決まっている。


「そう、だね。……少し、いいかな」

「はい」


 緋月が葛葉の胸に顔を埋めた。いつものような下心はなく、ただ純粋に葛葉の胸の中で泣くだけだった。鳴き声は上げずにただ静かに涙を流す。

 そんな緋月に、葛葉は緋月らしいと思ってしまうのだった。

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