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一話 酒池肉林は目の前に

『お母さま、早く元気になって下さいまし……(わたくし)寂しいですわ! 神様に祈っても全っ然っ、よくなりませんもの!』


 寝台の上で上体だけ起こした母が、手を握る私の手を優しく握り返してくれた。その時の感触が今でも忘れられない。


『そうねぇ〜……ふふ、あなたが神様に私の事をどれくらい好きで、どれくらい想ってるか祈れば、神様もきっとあなたの祈りを叶えてくれるわよ』


 母様はいつもそう言っていた。けど、


『ほんと⁉ じゃあ毎日お祈り致しますわ! お母さまの身体がよくなりますようにって!』

『えぇ、ありがとう。……愛してるわ』


 母様はいなくなった。

 もう二度と会えない場所へ逝ってしまった。

 幼い私は母様に言われた通り、毎日教会に赴き祈りを捧げた。母様の病気が治りますようにと、母様のことをどれくらい好きで、どれくらい想っているか、一時間も祈りを捧げ続けた。


「でも、母様は……」


 死んだ。


「神なんて居ませんわっ」


 慈悲深き神など、いや神など端から存在などしない。


「私は私だけ信じますわ! 神などおりませんもの!」


 だから私はそう決心したの―――。



『かんぱ〜い‼︎』


 冒険者の声がギルド中に響き、ビールジョッキをぶつけ合う音が始まりの合図だった。

 男性冒険者達が肩を組み合いビールを呷り、ウェイトレスのお姉さんにおかわりを頼む。そんな傍、女性冒険者達も乾杯をしてじゃんじゃん飲んでいた。

 葛葉達が帰還したその日の夜、ギルドでは緋月主催の勝利の宴が開かれていた―――。


「―――ぷはぁ〜‼︎ 葛葉さん、葛葉さん! この組み合わせ凄くいいですよっ‼︎ 食べてみて下さいよぉ!」


 ちゃっかり葛葉の隣に座った律が、ビールと串焼きを手に葛葉へ猛アプローチをしていた。


「葛葉様のお好きな物はどれですか? ……葛葉様と同じ物を食べて同じ感覚を……!」


 一見普通そうに見える五十鈴が、並べられた料理から葛葉の好きな物を食べようと必死で探していた。

 最後らへんにゴニョゴニョと怪しいことを言っていたが。


「ふ、二人とも……せ、狭い……」


 ギュウギュウと肌と肌が触れ合う距離になるのは、角のテーブル席だからだろうかと思いつつ葛葉は自由に動かせない腕に、難儀だと眉を寄せた。


(と言っても二人が私に好意を持っていることを知っている身としては嬉しい限りであるけど……)


 グラスに口を付け酒を味わい、葛葉は瞑目した。両サイドに美少女、目の前には大量に並べられた料理、「これが酒池肉林か……!」と呟いた。

 そんな葛葉達の目の前では、バクバクと料理を凄い勢いで平らげる鬼丸が居た。いつもなら律と五十鈴に嫉妬し、飛び掛かってくるだろう人物なのに、今回は違った。


「鬼丸はいいの? これ」


 不思議に思った葛葉が五十鈴と律の頭を撫でながら尋ねると、鬼丸がチラッと見やり間を置いてから、


「フッ、わしは器が広いからのう。それはレベルアップの褒美と言うことにするのじゃよ」

「へぇ〜」


 ドヤ顔でそう言った。自然に葛葉は相槌をうち、またお酒を飲もうとして、


「…………えっ⁉︎」


 気が付いたのだ。自然過ぎる会話に内容があまり入ってこず、重要過ぎる単語を聞き逃していたのだ。


「―――皆〜‼︎ 元気にやってるか〜い‼︎」


 鬼丸に聞き返そうとした矢先、職員用扉から飛び出してきた緋月がお酒を片手に、ギルドにいる冒険者全員に声を掛けたのだ。

 緋月の声掛けに冒険者達は歓声で答え、緋月はうむうむと首を縦に振った。

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