六十五話 真実を知っても
馬車に揺られながら葛葉は外の景色を眺めていた。
出雲を発ってから早数時間、何事もなく晴れ渡る空の下、葛葉達はゆっくりのんびりと帰ることが出来ていた。
ただ葛葉だけは心に靄が掛かったままだったが。
「……そうだ。律は残んなくてよかったの?」
「ふぇ?」
バクバクと馬車に乗る前に律が買っていた弁当、それをえらいスピードで食べていた律に、葛葉は律の両親のことを思い出しながら尋ねた。
が律はキョトン顔で首を傾げた。
「はい、問題ありませんよ? 逆に戻ってきたら怒られちゃいますっ」
あはっと笑い律は後頭部に手を置いた。
そう、と葛葉は短く返事をして、なら問題なしと納得するのだった。
そして律の口周りについた米粒を取って食べてあげていると、
「のうのう、葛葉よ。その手に持っとるのはなんなのじゃ?」
外を眺めていた鬼丸が葛葉の握るものに興味を示した。
葛葉の手には開花した桜の紋が刻まれた一枚のメダルがあった。
「……これは、なんかいつか役に立つって」
そう言われてイズモから受け取った物だった。
二日前、葛葉がイズモに直談判しに行き、イズモの先祖達が調べてきた邪竜の情報を葛葉達は知った。
討伐されたのは八人のうち六人のみ、残りは先代の【英雄】を屠った『星を眺める者』と、この世界の絶対的な存在『絶対なる覇者』の二人のみだそう。
だがこの二人こそ、子供達の中でも最も最凶最悪の子らだった。
『星を眺める者』は天変地異を自在に操る、その最たる攻撃方法は星を使った天変地異が多かった。
『絶対なる覇者』は空間と時間を自由自在に操り、その体躯もさることながら討伐は不可能と言われている。
どちらとも推定Lvは最低でも13。『絶対なる覇者』に至っては20となっている。
人類に勝ち目などありはしないが、この数値は『絶対なる覇者』の情報が少ないせいでもあるのだそう。
(この二人と、他の六人の違いが……『死ぬことを願ってる』だなんて)
葛葉はてっきりアシビアだけかと思っていたのだ―――。
「―――だから殺すんですか……!」
尻すぼみしていく声で葛葉はイズモの背中に訴えた。
死を望むから死を与える、それは救いだろうが、葛葉にはそうは思えないのだ。
「はい。哀れな彼女達のためにも……そして今を生きる我々のためにも、殺すしかないのです」
イズモの言っていることは正しかった。葛葉の思うことは全てが綺麗事だ、理想論だ。
「そして今日。死を望んでいた最後の少女が討たれました。……厄災が終わったのです。ですが、まだ邪竜は存在します、先代英雄を殺した『星を眺める者』、存在自体が許されない『絶対なる覇者』」
一匹の名は葛葉でも知っていて、もう一匹は知らない。葛葉は冷や汗を流し、固唾を飲んだ。
「英雄様……あなたの使命は、魔王も邪竜も倒すことです」
葛葉の目を真っ直ぐと見てイズモは答えた。それがこの世界が英雄を欲し、成してほしいことだ。
散々葛葉がこの世界に来てから言われ続けたこと。
「真実を知った今でも、あなたは……戦ってくれますでしょうか……?」
邪竜の正体がいたいけな少女達と知って、葛葉の考えは、
「戦います。……私が望むのは|うんざりするほどボロクソ言われるだろうご都合主義展開ですから。それに、会えますから……また会えますから」
変わらない。
だから葛葉は進み続ける。挫折も悔恨も絶望だって乗り越えて、英雄は成り上がる。
成り上がり続けてみせる。輪廻の果てで出逢えるのだから。
今はこの世界の欲している【英雄】でいようと。葛葉は固く決意し、言葉を紡ぐ。
「―――TS化転生っ娘は成り上がります‼︎」
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