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六十四話 本当の御伽話

 イズモの独白は葛葉達を驚かせるのには十分な物だった。殺す、そう確かに言ったのだから。


「―――今から何千年も前のお話です。……あるところに一人と男性と一匹の竜が居ました」


 そんな驚きの中、イズモは独白の口調とは違う、御伽話を話す口調で話し始めたのだ。だが実際、導入が御伽話のそれだった。


「男性はこの世界に降り立ち、あらゆる物―――万物を創造し邪神をも退けました。そして一匹の竜と、いえ、見目麗しい竜人種の女性と恋に落ちました」


 薄暗い廊下のなかで語られるそれは、葛葉が初めて聞くこの世界の御伽話であり、少しだけ興味が湧いてきたのだ。

 後ろにいる律と五十鈴は渋い顔をして空笑いをしていたが。


「有名な話なの?」


 不思議に思った葛葉は声を潜めて二人に尋ねてみた。

 すると二人は「えっ」と驚き顔を見合わせた。


「有名ですね、知らない人は居ないくらいには」


 五十鈴が一度咳払いして答えた。が律が何か不安気なのに葛葉は首を傾げた。


「あのぅ、皆様……お話をぉ」


 するといつの間にか静かになっていたイズモが、葛葉達に泣きそうな顔で振り返ってきていたのだ。


「あぁ……と、ごめんなさい。ちゃんと聞くんで、続けてください!」


 葛葉は謝りつつイズモに話の続きを促した。次は聞くと、ふんすと、そう意気込んで。


「……で、では。コホン……えぇ、恋に落ちた二人の間には亜竜人種の子供が九人産まれました。……おしまい」

「…………え?」

「これで終わりなんですよね〜、葛葉さんは知らないようでしたので驚きですよね!」


 ニマーっと葛葉の驚き顔を見る律の頭を押し除け、葛葉はイズモへ声を掛けた。


「これで終わり……なら、めでたしめでたし……ですよね? 今、話すお話じゃない気が……」


 葛葉の疑問に思った点はそこだった。これで終わりの物語なら、めでたしめでたしだ。なのに、それを今話す意味。


「はい。実はこのお話はまだ終わっていません……。平和に暮らしていた彼ら彼女らの下にある時、影がやってきました」


 躊躇い、イズモは葛藤の末話し始めた。本当のお話を。


「その影は男性の妻を殺害し、その屍を操り世界の五割を滅ぼしました。そして男性すらも妻の屍を使い殺しました。残された子供達は抵抗しましたが、大切な母の身体には傷つけられず、次々に……」


 何千年も昔の話なため所々端折られ、簡略化されているとはいえ、胸糞の悪い話だった。

 葛葉も律も五十鈴も、見る見るうちに顔が怖くなっていった。


「人族や、他の種族も力を合わせて戦いましたが……影を倒すことには至らず、最終的に影は子供達を暴走させ、姿を晦ませました……」


 どういう思考回路をしていればそれほどに酷い仕打ちが出来るのか、葛葉は拳を強く握り締めた。


「子供達の暴走により世界のほとんどが焦土と化しました。それを見かねた初代の英雄が子供達を封印、長い眠りに就かせました。……封印した理由は、当時、子供達を討伐出来るほど世界には余裕がなかったのです。そして初代英雄はこの出来事を後の世に知らしめるため、このお話を本にしたり、人々に伝えると共に、世界復興の旅をしたと言います」

「……凄いお話ですね。特に初代英雄が……」

「はい、とても素晴らしい人物ですよね! 数多くの伝説を残した偉大な英雄様です!」


 キラキラとイズモの目が輝いていた。初代の英雄に対する憧れからか、とても愛らしい顔だった。


「それでは邪竜の起源は……」

「はい、封印されし子供達なのです。……このお話の続きを知っている者は少なく、多くが邪竜はこの世界から取り除かなくてはならないという考えを持ってしまいました。ですが、私の祖先は違いました」


 行き止まりでピタッと脚を止めたイズモが葛葉へと振り返ると、すぐ隣にあった柱に手を翳した。

 すると柱に数字が浮かび上がりイズモは六桁の数字を打ち込んだ。


「―――っ!」


 イズモが打ち込み終わると同時に廊下全体が動き始めたのだ。

 そして行き止まりになっていた廊下の壁が上に上がり始めた。壁が完全に上がり切るとそこには、ポツンと簡素な扉が建っていた。


「ようこそ……我が先祖代々受け継がれてきた隠し部屋に―――っ‼︎」


 扉を開きイズモは葛葉達を迎え入れるのだった。

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